経営戦略

定款の相対的記載事項を戦略的に設計する|会社法の条文から逆算する実務パターン集

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

定款の相対的記載事項

共同創業者と50:50で会社を設立して3年目、事業の方向性で意見が完全に割れた経営者から相談を受けたことがあります。相手を取締役から外したいが、任期を10年にしてしまっている。解任すれば残存任期7年分の報酬相当額を損害賠償請求されるリスクがある。かといって任期満了まで7年も待てない。

聞けば、テンプレートで設立して「とりあえず10年にしておけばコスト削減になる」とネットで読んだからそうした、と言ってました。共同経営なのに。。

任期10年は一人社長には正解でも、共同経営には時限爆弾になり得る。同じ条項なのに、株主が一人か二人かで正解が真逆になる。これが相対的記載事項の厄介なところです。

そもそも相対的記載事項とは何か

定款の3つの記載事項の階層図|絶対的・相対的・任意的記載事項の違い

定款に書かなくても定款自体は有効だけれど、書かなければその効力が認められない項目です。「使いたいなら書いておけ」という性質のものになります。

絶対的記載事項が「これがないと定款として無効」という最低ラインなのに対して、相対的記載事項は「どういうルールで会社を回すか」を決める部分です。取締役を何年で交代させるのか、株式を勝手に譲渡していいのか、会議をメールで済ませていいのか。こういう運営の細部がここに入ります。

テンプレートで設立した会社の定款を後から確認すると、この部分がほぼ手つかずで放置されているケースが本当に多いんです。形だけ譲渡制限が入っていて、あとは何もない。書面決議もなければ相続人への売渡請求もない。必要だと気づいたときには株主総会の特別決議と変更登記を経ないと追加できません。

会社法上、相対的記載事項に該当する主な項目を条文の根拠とあわせて整理しておきます。

変態設立事項(会社法第28条)

  • 現物出資(金銭以外の財産による出資)
  • 財産引受(設立後に特定財産を取得する契約)
  • 発起人の報酬・特別利益
  • 設立費用

株式に関する事項

  • 株式の譲渡制限(会社法第107条1項1号、第108条1項4号)
  • 株券の発行(会社法第214条)
  • 単元株式数(会社法第188条1項)
  • 種類株式の内容(会社法第108条)
  • 基準日(会社法第124条)
  • 相続人等に対する売渡請求(会社法第174条)

機関設計に関する事項

  • 取締役会の設置(会社法第326条2項)
  • 監査役・監査役会の設置(同上)
  • 会計参与の設置(同上)

運営ルールに関する事項

  • 取締役の任期の伸長・短縮(会社法第332条2項)
  • 株主総会の招集期間の短縮(会社法第299条1項)
  • 取締役会の書面決議(会社法第370条)
  • 役員の責任の一部免除(会社法第426条)
  • 公告方法(会社法第939条)

一覧にすると多く見えますが、全部を設立時に検討する必要はありません。半分くらいは事業規模が大きくなってから考えれば間に合います。以下、設立時に判断を間違えると後で痛い目を見る項目を中心に書いていきます。

株式の譲渡制限

株式譲渡制限のフロー図|会社法第136条の買取義務まで解説

これを入れること自体は当たり前で、問題は「承認機関をどこにするか」です。

中小企業なら譲渡制限を入れるのはほぼ前提で、これを入れないと会社法上「公開会社」に分類されて、取締役会の設置義務(会社法第327条1項1号)や監査役の設置義務が自動的に生じてしまいます。取締役1名のシンプルな会社を作りたかったのに、3名以上揃えろと言われる。そうなると本末転倒です。

テンプレートで設立しても譲渡制限は入っていることが多いので、ここで問題になるのは「入れるか入れないか」ではなく「承認機関をどこにするか」の判断です。

承認機関の選択がもたらす組織運営の違い

定款に「当会社の発行する株式の譲渡による取得については、株主総会の承認を要する」と書くか、「取締役会の承認を要する」と書くか。この違いが後々効いてきます。

取締役会を承認機関にすれば経営陣の判断で株式移転をコントロールできますが、株主の意思は反映されにくい。株主総会を承認機関にすれば、少数株主にも発言権が残ります。一人社長で取締役会も置かないなら株主総会一択ですが、共同経営の場合はこの選択を慎重に考えるべきです。

事業売却の現場で評価される譲渡承認の実務

私が事業売却した際、買い手企業のデューデリジェンスで最初に聞かれたのがこの部分でした。「承認機関はどこですか」「譲渡承認の実績はありますか」と。承認機関が株主総会だと、仮に株主間で紛争が生じた場合に譲渡承認自体がデッドロックになるリスクがあるため、M&Aの文脈ではやや懸念材料になります。当時は取締役会承認にしていたので問題ありませんでしたが、もし株主総会承認にしていたら買い手の反応は違ったかもしれません。

投資家からの資金調達を想定した将来の受け皿作り

スタートアップでVCから資金調達する場合は、もう少し複雑になります。普通株式に譲渡制限を付けた上で、投資家向けの優先株式(種類株式)にも別途の譲渡条件を設ける。投資契約書上のDrag-Along条項やTag-Along条項との整合性を取りながら設計しなければならず、定款だけでは完結しません。この辺りは投資契約に精通した弁護士と組んで設計することになりますが、定款側の受け皿として種類株式の発行枠を最初から入れておくかどうかは、設立時に判断が必要です。

取締役の任期

取締役の任期比較タイムライン|2年・5年・10年と登記コスト

冒頭で書いた共同創業者の話に戻ります。任期10年が問題になったケースです。

非公開会社の取締役の任期は、定款で最長10年まで伸長可能です(会社法第332条2項)。定款に定めがなければ原則2年になります。

一人社長なら10年にして何の問題もありません。2年ごとの重任登記が不要になるので、登録免許税1万円×5回=5万円のコスト削減。加えて、登記を忘れて放置した場合の過料リスク(会社法第976条1号、100万円以下)もゼロになる。地味だけど確実に効く設計です。

共同経営で任期を長く設定する際のリスク

問題は共同経営の場合です。冒頭の社長は、共同創業者を取締役に入れた上で任期を10年にしてしまった。3年目で関係が悪化して、相手に辞めてもらいたいが正当な理由がない。正当な理由なく解任すれば残存任期7年分の報酬相当額を損害賠償請求される可能性がある(会社法第339条2項)。報酬が月50万円なら、50万×12か月×7年=4,200万円。これが最悪のシナリオです。

実際にはここまでの判決になることは稀ですが、解任のリスクとコストが任期に比例して大きくなるのは間違いない。共同経営で任期10年は、言い方を変えれば「10年間は相手を辞めさせられない覚悟がありますか」という問いかけです。

結局その社長は、相手方と交渉して合意退任という形を取りまして、退職慰労金として数百万円を支払い、株式も買い取り。設立時に任期を4年にしておけば、任期満了を待つだけで済んだかもしれない。「たかが任期の数字」がここまでの金額差になるとは、設立時には想像もしなかったでしょう。

組織の形態に応じた実務上の適切な任期設定

私の推奨は、一人社長なら10年。共同創業で2〜3名なら4〜5年。VCが入っているなら2年(投資家の標準的な要求に合わせる)。

後から任期を短縮するには定款変更が必要で、しかも既に任期中の取締役に対しては当該定款変更をもって任期満了とする旨の決議も併せて行わなければなりません。やれなくはないけれど、面倒です。

機関設計について少し触れておきます

機関設計パターン3種の比較表|取締役のみ・監査役設置・取締役会設置

定款で取締役会、監査役、会計参与などの機関を設置するか否かを定めます(会社法第326条2項)。定款に記載しなければこれらの機関は存在しないということになります。

非公開会社であれば取締役1名のみの最小構成が可能です。監査役も取締役会も不要。一人社長の会社にはこれが合理的だと思います。

取締役会の設置要件と監査役の任期に関する制限

取締役会を置くなら取締役3名以上+監査役1名以上が必要になります。ここで見落としがちなのが監査役の任期です。4年で短縮不可(会社法第336条1項)。知人に頼んで名目的に監査役を置いた場合、4年間は辞めてもらえない。正確には辞任は可能ですが、後任を選任する義務が生じます。

以前、知り合いの税理士に頼んで監査役になってもらったものの、その税理士が独立して地方に移転してしまい、総会の度に交通費を負担して来てもらうか、後任を探すかで困っている社長がいました。「軽い気持ちで頼んだのに」と言っていましたが、これは機関設計の問題というより、監査役の任期が4年固定であることを知らなかった問題です。

非公開会社であれば、監査役の代わりに会計参与を設置することで取締役会設置が可能になります(会社法第327条2項但書)。顧問税理士が引き受けてくれるなら検討の余地はありますが、実務上はあまり使われていないのが実情です。

将来の組織変更を見越した定款の記載方法

機関設計で一つアドバイスがあるとすれば、設立時に「取締役会を置かない」と明示的に書くのは避けた方がいいということです。単に取締役会に関する条項を設けないだけにしておく。前者だと、将来取締役会を設置する際に「置かない」を削除する変更と設置の変更と二重の手続きが要る場合がありますが、後者なら追加するだけで済みます。書き方ひとつの話ですが、知っているかどうかで手間が変わってきます。

書面決議

対面会議と書面決議の比較|会社法第370条で意思決定を効率化

取締役会の書面決議(会社法第370条)。
取締役会を設置する場合は、これだけは定款に入れることを強くお勧めします。

取締役全員が書面やメールで同意し、監査役が異議を述べなければ、会議を開かなくても決議が成立する仕組みです。

これは定款に定めがなければ使えないですが、入れておいて困ることが一切ない条項です。入れるかどうか迷う余地がない。取締役会設置会社なら入れる。それだけの話だと思っています。

全員一致が要件なので、一人でも反対があれば通常の会議を開く必要がありますので万能ではないけれど、代表取締役の住所変更に伴う報告的決議とか、定例的な借入の承認とか、形式的に全員が異存ないことが分かっている案件をわざわざ日程調整して会議室に集まって処理する必要がなくなります。メール一本で回覧して「異議なし」で完了。これが使えるかどうかで、日常の事務負荷がかなり違います。

注意点として、新規事業への参入や大規模投資の判断など実質的な議論が必要な事項を書面決議で処理するのは不適切です。形式的に通していても、充分な審議がなされていなければ善管注意義務違反を問われる可能性がありますので、書面決議はあくまで「全員一致が明らかな軽微事項」の効率化ツールだと思ってください。

相続人への売渡請求

相続人への売渡請求のフロー|株主死亡から会社買取までの流れ

会社法第174条。
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

非公開会社に限り、株式の相続人に対して会社への売渡しを請求できる旨を定款で定めることができます。

これは中小企業の事業承継で本当に重要な条項で、実際に入れておかなかったことで揉めたケースを何件か経験しています。

定款の不備が招いた1年に及ぶ買い取り交渉の事例

具体的に言うと、ある顧問先の会社で、創業メンバー3人で株式を持っていた事例で、一人が急病で亡くなり、株式は遺族(奥さん)が相続しました。奥さんは経営にまったく関与していないのに議決権の3分の1を持つことになり、その後の株主総会で事あるごとに反対票を投じるようになったというのです。「夫が生きていたらこんな方向には賛成しなかったはず」というのが理由です。

売渡請求の条項が定款にあれば、株主総会の特別決議(会社法第175条)で相続人に売渡しを請求できた。ところが入っていなかったので、任意の交渉で買い取るしかない。相続人が応じなければそれまでです。結局、かなりの金額を提示してようやく買い取りに応じてもらいましたが、その交渉に1年以上かかったということでした。

売買価格は原則として当事者間の協議で決定し、協議が整わなければ裁判所に価格決定の申立てをすることになります(同第177条2項)。手間もコストもかかりますが、少なくとも「請求できる」という法的根拠があるのとないのとでは、交渉の立場がまるで違います。

設立時に入れておくべきかどうかの判断は単純で、株主が複数いるなら入れておくべきです。一人株主でも、将来的に株式を分散させる可能性があるなら入れておいて損はありません。

事業年度と公告方法

事業年度と公告方法の選び方|決算月の決め方と官報・電子公告の比較

ここで、少し毛色の違う話を二つ。

事業年度は厳密には任意的記載事項(定款に書かなくても効力は生じる)ですが、相対的記載事項と合わせて設立時に設計すべき項目なのでここで触れておきます。

テンプレートでは4月〜3月が多いですが、これをそのまま使っていいかは考える余地があります。

節税と資金繰りを左右する決算月の決め方

判断基準は主に3つ。繁忙期と決算月を重ねないこと。法人税の納付(決算から2か月後)が資金繰りの苦しい時期と被らないようにすること。そして設立初年度の消費税免税期間を最大化するために設立日と決算月の距離を離すこと。

特に3つ目は見落とされがちです。資本金1,000万円未満の会社は原則2期分の消費税が免除されますが、1期目の長さは設立日から最初の事業年度末までで決まります。4月1日設立で3月決算なら1期目はほぼ12か月。4月1日設立で9月決算だと1期目は6か月しかない。売上が月100万円の会社なら、この差は消費税で数十万円になりえます。

無駄な官報費用を削減する電子公告の選択

公告方法については、電子公告を選択しておくのがコスト面では合理的です。官報公告は1回7万円前後かかりますが、電子公告なら自社サイトに掲載するだけで済みます。定款で定めなければ自動的に官報公告がデフォルト適用される(会社法第939条4項)ので、意識的に選択しておかないと何となく数万円を払うということになってしまうかもしれません。。

後から変更もできますが、わざわざ定款変更して登記するのは面倒なので、最初から電子公告にしておいても良いかもしれません。

現物出資をやるなら避けて通れない変態設立事項

現物出資と変態設立事項のチェックポイント|検査役・価額の妥当性・発起人責任

会社法第28条に規定される変態設立事項。名前が奇妙ですが、要するに金銭以外の財産を出資に充てる場合などに、定款への記載が必要になる事項です。

ITスタートアップで最近見られるのが、開発済みのソフトウェアを現物出資するケースです。「このシステムには500万円の価値がある」として出資に充て、その分の株式を受け取る。定款には出資者の氏名、財産の内容、価額、割り当てる株式数を記載しなければならず、記載がなければ現物出資自体が無効になります。

現物出資の価額が500万円を超える場合は原則として検査役の調査が必要ですが(会社法第33条)、税理士等の証明があれば不要(同条10項3号)。ただし、ソフトウェアの評価額の算定根拠が曖昧だと、後の税務調査で否認されるリスクがあります。定款に記載するだけでなく、評価の根拠資料(開発工数の積み上げ、類似サービスの取引事例など)をセットで整備しておく必要があります。

財産引受(設立後に発起人の財産を会社が買い取る契約を事前に締結するケース)も同様で、定款に記載しなければ無効です(会社法第28条2号)。設立時の計画で「設立後にこの不動産を会社に移す」という構想があるなら、必ず定款に記載しておかなければなりません。後から追認ができないので、ここを落とすと取り返しがつきません。

今は不要でも将来必要になるかもしれない役員の責任免除

役員の責任免除条項の将来的価値|M&AとExit時の必須備え

会社法第426条と第427条。取締役等の損害賠償責任を定款の定めに基づいて一部免除できる、あるいは社外取締役との間で責任限定契約を締結できるとする規定です。

一人社長で社外役員の予定がまったくないなら、正直この条項は不要です。入れても使う場面がない。

ただ、将来的にIPOを目指す会社や、VCから出資を受けて社外取締役を招聘する可能性がある会社は、早めに入れておくべきだと考えています。社外取締役候補者に「責任限定契約を結べます」と説明できるかどうかで、引き受けてもらえるかの分かれ目になることがあるからです。

社外役員は非常勤で情報量も限られるのに無制限の賠償責任を負うとなれば、まともな人ほど断ります。実際、ある会社でシリーズAの後に社外取締役を探したとき、候補者の弁護士から「責任限定契約を結べないなら受けられない」と言われて、急いで定款変更したケースがありました。最初から入れておけばこの手間はなかったわけですが、設立時には想像もしていなかったんでしょう。

相対的記載事項と任意的記載事項の線引きについて

相対的記載事項と任意的記載事項の境界線|効力発生条件のマトリクス

実務上よく聞かれるので補足しておきます。判断基準はシンプルで、「定款に書かないとその効力が一切認められない」のが相対的記載事項、「書かなくても別の方法で効力を持たせられる」のが任意的記載事項です。

事業年度や株主総会の議長に関する規定は任意的記載事項ですが、定款に書いておく実益は大きい。定款に書いておけば変更に特別決議が必要となるので安易な変更に歯止めがかかりますし、議長規定があれば毎回議長の選任決議を省略できる。

法的には明確に区別されますが、実務的には「入れた方が得かどうか」を検討する対象という意味で、どちらも設立時に一緒に考えるのが自然です。

最後に

定款は経営の設計図|成長・Exit・相続・資金調達を支える根幹文書

冒頭の共同創業者の件。あの社長は結局、合意退任に数百万円かかりました。設立時に任期を4年にしておけば、待つだけで済んだ話です。「たかが数字ひとつ」の判断を設立時にしなかっただけで、これだけの差が出る。

相対的記載事項は「書いてもいいし書かなくてもいい」ものではなくて、「書くかどうかを判断しなければならない」ものです。その判断材料は会社ごとに全部違います。一人社長なのか共同経営なのか、許認可が絡むのか、資金調達の予定があるのか、株主に高齢者がいるのか。これらの条件によって、入れるべき条項も入れ方も変わってきます。

この記事で挙げた条項の多くは、一文入れるか入れないかの話です。設立時に30分多く考えるだけの話でもあります。その30分を惜しんだ結果が、数年後の数十万円や数百万円の出費になる可能性があるということが伝わればと思っています。

相対的記載事項、ちゃんと設計しませんか?

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