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ChatGPTで作った遺言書は有効か|AIで遺言書を作成する前に行政書士が押さえる民法のルール

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

「ChatGPTに財産情報を入れて遺言書を作ってもらったんですが、これを印刷して署名すれば自筆証書遺言になりますよね?」

そう聞かれたのは、知人の紹介で訪ねてきた62歳の経営者さんからでした。中堅製造業の代表で、自宅と別荘、賃貸マンション1棟、それから上場株と投資信託で計1.2億円ほどの資産がある。子どもは2人、揉めずに承継したい、できるだけ自分で済ませたい。ChatGPT Plusを契約していて、業務でも普通に使っている方です。

私はその場で、うっすら冷や汗をかきました。

率直に言うと、ChatGPTで生成した文面を印刷して署名押印しても、自筆証書遺言として有効には扱われない、と私は解釈しています。これは私の独自意見というより、民法第968条の「自書」要件の解釈として、多くの実務家が同じ立場を取っているはずです。

私自身は行政書士として相続・遺言の業務に関わっていますが、それ以前にシステム開発の事業を立ち上げ、2社を経営し、うち1社の事業売却(Exit)も経験しました。生成AIは業務でも使っています。「全部AIに任せれば楽」という気持ちはよくわかるんですが、遺言書だけは構造的にAIだけでは完結しない、というのが現状の私の感覚です。なぜそうなるのかを、行政書士の視点で書きます。

民法第968条が定めている「自書」というルール

民法第968条が定めている「自書」というルール

民法第968条1項は、自筆証書遺言の方式についてこう定めています。

「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」

短い条文ですが、ここに「自書」という一語が入っているのが、生成AIの時代にとって重いんです。タイプライターやワープロで打ったものは自書に当たらない、というのが古くからの解釈です。手書きには筆跡という固有のサインがあって、後から「これは本人が書いた」と確認できる。タイプ出力にはそれがありません。だから、本人がたとえ自分でタイプしたとしても、自筆証書遺言の形式要件は満たさないと解されます。

ChatGPTで生成した文面を印刷して署名押印するというのは、まさにこのタイプ出力に署名する形です。本文が自書されていないので、第968条1項の要件を満たさず、無効と判断されます。「いや、でも本人がサインしているじゃないですか」という反論は、形式要件の話には届きません。

ただ、平成30年(2018年)の改正で、第968条2項が新設されて、財産目録だけは自書でなくてよくなりました。財産目録をパソコンで作る、登記事項証明書のコピーを添付する、ということが認められるようになった。条件は、その財産目録の各ページに本人が署名押印すること。本文は引き続き全文を自書する必要があります。緩和されたのは目録部分だけ、という理解です。

それから、日付の自書要件。これもけっこう厳しめに見られています。最高裁の判決(昭和54年5月31日)で、「令和7年5月吉日」のように具体的な日が特定できない記載は無効、と判断されています。「吉日」では何月何日かが特定できないという理由でした。AIに「日付を入れて」と頼むと、わりと頻繁に「吉日」と出力されることがあるんです。これは現場で何度か見ている、無効パターンの定番です。

押印は、実印でなくとも認印で足りるとされていますが、本人のものであることが明確である必要があります。三文判だとあとで「他人がすり替えた」と争われたときに苦しいので、実印で押しておくのが安全です。これは法律というより、実務上の知恵に近い話。

AIが出してくる文面で、よく見る無効リスク

AIが出してくる文面で、よく見る無効リスク

行政書士として実際に見てきた「ChatGPTが出力する遺言書のよくある問題」を、いくつか書きます。

たとえば財産の特定。「◯◯銀行の預金は長男に相続させる」という曖昧な書き方では、複数の支店・複数の口座を持っている方の場合、どの口座のことか確定しません。支店名・預金種別・口座番号まで特定する必要があります。AIは「◯◯銀行の預金口座」程度の表記でドラフトを作りがちで、そのまま遺言書として使うと、あとで相続手続きが詰まります。

不動産も同じで、AIに住所を伝えると、住居表示(普段使う「東京都世田谷区◯◯町1-2-3」のような表記)でドラフトに入れてくることが多い。けれど不動産の特定は登記簿上の表示(所在・地番・地目・地積)でやらないと、登記実務上は特定が不十分とされる場合があります。これも、登記簿謄本を取り寄せて書き直す必要が出てくる項目。

それから「相続させる」と「遺贈する」の使い分け。法定相続人に対しては「相続させる」、法定相続人以外(嫁や養子に入っていない孫、内縁の配偶者、第三者など)には「遺贈する」と書きます。AI出力ではこれが混同されていることが普通にあって、「妻に自宅を遺贈する」と書いてしまうと、本来「相続させる」と書くべき場面で遺贈になり、税務上の取り扱いや登記の手続きが変わってしまいます。微妙な違いに見えるんですが、後の手続きでは確かに効いてくる。

遺留分への配慮も、AIだけでは弱いです。「全財産を長男に相続させる」と書くと、長女や妻には遺留分という最低限の取り分が法律で保障されていますから(民法第1042条)、長女が遺留分侵害額請求をすれば、結局は財産が動きます。AIに「揉めない遺言書を作って」と頼んでも、家族関係の機微を踏まえた遺留分対策までは書けません。これは行政書士・弁護士の領域だと感じています。

遺言執行者の指定が抜けるのも、AIあるあるです。執行者は遺言の内容を実現するために動く人で、指定がないと相続人全員の協力が必要になり、誰か一人でも非協力的なら手続きが止まります。AIは聞かれない限り執行者の指定を入れてこないことが多くて、依頼者本人もその重要さに気づかないまま「これで完成」と思ってしまうケースは、わりとあります。

ただし、公正証書遺言のドラフトとしては使える

ただし、公正証書遺言のドラフトとしては使える

ここまでの話だけを聞くと「AIは遺言書作成にはまったく使えない」という印象になるかもしれません。でも、そうでもないんです。公正証書遺言のドラフトとしてなら、AIは普通に役立ちます。

公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書です。本人が公証役場に行って(または公証人が出張して)、口頭で内容を伝え、公証人がそれを文書にする。証人2人の立ち会いが必要で、原本は公証役場で保管されます。費用は財産額に応じて1.6万円〜数十万円の公証人手数料がかかりますが、自筆証書のように方式の不備で無効になるリスクは極めて低い。「相続で揉めるリスクがあるなら公正証書遺言を」と多くの行政書士が勧めるのは、この安全性ゆえです。

公正証書遺言の場合、本人の意思を反映した「ドラフト」を事前に作って公証人に渡す流れになります。このドラフトの作り方には法的な縛りがほとんどなくて、自書である必要はない。ここで生成AIが効いてきます。

私の事務所での実際の流れは、おおまかにこうです。依頼者の方に、ChatGPTなどで「自分が遺したいこと」を一通り書き出してきてもらう。財産目録、誰に何を渡すか、執行者は誰にしたいか、付言事項。箇条書きでもいいし、ChatGPTと対話しながら整理してもらってもいい。それを私のところに持ち込んでもらいます。

そこから先が行政書士の仕事です。文言を法的に通用する形に書き直し、財産の特定情報を登記簿や残高証明書と突き合わせる。相続税・遺留分・特別受益・寄与分などの観点で漏れがないか検討する。家族関係を踏まえて、揉めそうな箇所を事前に潰す。場合によっては税理士と連携する。完成したドラフトを公証人に渡し、最終的に公正証書遺言として作成してもらう、という順番です。

AIは「言いたいことを文章化する」ところまでを担う。法的な正確さ、家族関係の機微、税務上のインパクト、公証人手続きとの接続は、人間がやる。AIに丸投げしない、最終確認は必ず人間がやる、というスタンスでこの数年は運用しています。

費用感としては、行政書士の遺言書作成サポートが10〜20万円程度(事務所により幅あり)、公証人手数料が数万円〜十数万円程度。ChatGPTを事前に使っておけば、行政書士に依頼するときのヒアリング時間が短縮できるので、結果的に費用も少し抑えられる、というメリットも実感としてあります。

なお、公正証書遺言については、ここ最近は手続きの電子化の動きも進んでいると聞いています。私が業務で接している範囲でも、ウェブ会議での打ち合わせや電子サインの話題が以前より増えてきました。ただ、運用の細かい部分は時期や公証役場によって差があるようですので、実際に利用される際は、ご自身の地域の公証役場や行政書士に最新の取り扱いを確認していただくほうがよいです。私が断定的に書ける段階ではないので、ここは正直に「動きがある」程度にとどめておきます。

AIに財産情報を入れる前に、ひとつだけ気にしてほしいこと

AIに財産情報を入れる前に、ひとつだけ気にしてほしいこと

最後に、短く一つだけ書いておきます。

ChatGPTやGeminiに、自分の財産情報・家族関係・口座番号・不動産の地番などを生で入力するのは、個人情報の取り扱いとしてはセンシティブです。利用しているサービスやプランによって、データがサービス提供者側に保持されたり、学習に使われたりする可能性が変わります。設定で学習利用をオフにできる場合もありますので、契約しているプランの規約は一度確認しておいたほうがいいと思います。

行政書士・弁護士などの士業は職業倫理として守秘義務を負っていますが(行政書士法第12条)、AIサービスは法律事務所のような守秘義務を負っていません。この非対称性は、利用者側でも理解しておいたほうがいい論点です。

実務的には、機微な情報(実名・口座番号・地番)は仮名や仮の数字でAIに渡し、行政書士に依頼する段階で実情報に置き換える、というのがいまのところ無難な使い方だと考えています。

最後に──遺言書は「最後の手紙」

ChatGPTで遺言書のドラフトを作ること自体は、否定しません。私自身も業務で生成AIをしっかり使っています。AIは下書きの効率を上げ、依頼者が「自分の言いたいこと」を言語化する補助になる。ここは率直に便利だと思っています。

ただ、自筆証書遺言として「印刷して署名すれば終わり」という運用だけは、止めたほうがいいです。民法第968条の自書要件を満たさず、無効になります。せっかく書いても、相続人がいざ使おうとした瞬間に「この遺言書は無効です」と言われる。これほど報われない結末はありません。

公正証書遺言のドラフトとしてAIを使うなら、行政書士や公証人と組み合わせるのが現実的な使い方です。AIに任せる範囲、専門家が必ず確認する範囲。最初に線を引いておくと、あとがスムーズになります。

遺言書はその人が最後に家族へ残す手紙のようなものだと、私は思っています。形式の不備で家族に届かなくなるのは、本当にもったいない。AIの便利さと、人間の最終確認をうまく組み合わせて、確実に届く形にしてもらえたらと思います。

ChatGPTで作ったドラフトを、有効な遺言書に仕上げませんか?

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