「定款の事業目的に『不動産業』って書いてあるんですけど、これで宅建業の免許取れますか?」
答えはノーでした。宅地建物取引業法上、免許申請時に求められるのは「宅地建物取引業」という文言です。「不動産業」では受理されません。窓口で突き返されて、定款変更の手続きから始めることになった。登録免許税3万円と約2週間のロス。
この手の相談はうちの事務所でも定期的に来ます。事業目的の書き方ひとつで許認可が取れるか取れないかが分かれる。それなのに、設立時にこの部分を深く考える人は驚くほど少ない。freeeやマネーフォワードの自動生成でなんとなく選んだ事業目的がそのまま登記されて、数か月後に許認可の申請で引っかかるパターンを何度も見てきました。
事業目的は定款の絶対的記載事項のひとつです(会社法第27条1号)。登記事項証明書にも載る。つまり取引先や金融機関が登記簿を取得したとき、最初に読む部分がこれです。ここに何が書いてあるかで、許認可の申請が通るか通らないかが分かれる。融資審査でも見られる。銀行口座の開設審査でも確認されることがある。それなのに、設立時にここを真剣に考える人は少ないというのが実感です。
法務局は通るのに、許認可の窓口で落ちる理由

よく誤解されるのですが、法務局で登記が通ったからといって、その事業目的で許認可が取れるとは限りません。
法務局の設立登記の審査では、事業目的の「明確性」はそこまで厳しく見られません。2006年の会社法施行以降、審査基準は緩和されたと解することができます。極端に意味不明な記載でなければ登記は通ります。
問題は登記の後です。宅建業の免許を申請するとき、建設業の許可を申請するとき、人材派遣の許可を申請するとき。それぞれの行政機関が求める「正確な文言」が事業目的に入っていなければ、窓口で受理されない。法務局はOKを出したのに、許認可の申請先ではNGになる。このギャップを理解していない方が本当に多いです。
融資審査も同じ構造です。登記は通ったけれど、金融機関から見たときに「何の会社かよく分からない」と判断される事業目的は、審査上マイナスに働く可能性がある。それぞれの場面で見ている基準が違うということです。
許認可に通る文言・通らない文言

ここからが本題です。許認可を取る予定がある方は特に注意して読んでください。
宅地建物取引業(宅建業)
必要な文言:「宅地建物取引業」
NGな書き方:「不動産業」「不動産の売買及び仲介」
宅建業法に基づく免許申請では「宅地建物取引業」という文言が定款の目的に入っていることが求められます。「不動産業」は意味としては近いですが、宅建業法上の用語ではないため、免許審査で不受理になるケースがあります。都道府県によっては「不動産の売買、賃貸及びその仲介」でも通る場合がありますが、最も確実なのは「宅地建物取引業」と書いておくことです。
建設業
必要な文言:許可を取りたい業種名を具体的に
NGな書き方:「建設業」だけでは不十分な都道府県がある
建設業許可は29業種に分かれており(土木工事業、建築工事業、電気工事業、管工事業、など)、申請する業種と定款の事業目的の整合性が審査されます。「建設業」とだけ書いてあっても許可が出る自治体もありますが、「土木工事業の請負及び施工」「建築工事業」のように具体的な業種名の記載を求める自治体もあります。
これは管轄の都道府県によって運用が異なるため、設立前に許可を申請する予定の都道府県の窓口に確認するのが確実です。「うちの県では『建設業』だけで大丈夫です」と言われることもあれば、「具体的な業種名を入れてください」と言われることもある。全国一律ではないのが厄介なところです。
労働者派遣事業(人材派遣)
必要な文言:「労働者派遣事業」
NGな書き方:「人材派遣業」「人材紹介業」「人材サービス業」
労働者派遣事業の許可申請では、「労働者派遣事業」という正確な法律用語の記載が求められます。「人材派遣業」だと許可が下りないケースがある。。「人材紹介業」に至っては、これは職業紹介事業(有料職業紹介事業)であって派遣とは別の許可になりますから、完全に別物です。
もう一つ注意点があって、定款の事業目的に「建設業」の文言がある会社が労働者派遣の許可を申請する場合、追加の書類提出を求められることがあります。建設業務への労働者派遣は法律で禁止されているため(労働者派遣法第4条)、「建設業と書いてあるけど、建設業務に派遣しない」ことを説明する書面が必要になる場合があるんです。事業目的に書いてあること同士が矛盾を起こすパターンとして、知っておいて損はありません。
その他の業種について簡単に
古物商は「古物の売買」か「古物営業法に基づく古物商」で通ることが多く、宅建業や派遣ほど文言に厳密ではありません。飲食店は「飲食店の経営」で通常問題ない。ただし深夜の酒類提供は風営法が絡むので注意が必要です。
介護事業は意外と厳しくて、「介護事業」だけでは不十分。介護保険法に基づく指定事業者の申請では「介護保険法に基づく居宅サービス事業」のように、サービスの種類に対応した文言が求められます。訪問介護なら訪問介護、通所介護なら通所介護。ここも許認可申請先に事前確認するのが確実です。
融資審査と銀行口座──事業目的が多すぎる問題

許認可の話から少しずれますが、融資の話もしておきます。
日本政策金融公庫や銀行で創業融資を申し込む際、登記事項証明書は提出書類のひとつです。融資担当者はこれを見ます。
以前、ある顧問先が公庫の創業融資を申し込んだとき、担当者に「御社の事業目的に22個書いてありますが、今回の融資はどの事業に対するものですか」と聞かれたことがありました。本業はウェブ制作なのに、事業目的には不動産、飲食、コンサル、EC、広告、イベント企画…と色々入っていた。「将来やるかもしれないから」と全部入れたそうです。
融資は出ましたが、担当者からは「もう少し絞った方がいいですよ」と言われたとのこと。融資非対象業種(金融業やパチンコ、一部の風俗営業など)が入っていたら、もっと面倒なことになっていたかもしれません。
法人の銀行口座の開設でも同じ問題が起きることがあります。ネット銀行を中心に法人口座の開設審査が厳格化されている昨今、事業目的が多すぎたり不明瞭だったりすると、審査に余計な時間がかかるケースがあるように感じています。明確なデータがあるわけではありませんが、口座開設で苦労する会社の定款を見ると事業目的が20個超えているケースが目立つというのが私の印象です。
事業目的の数と並べ方──実務上のバランス

「将来やるかもしれない事業は全部入れておいた方がいいですか?」
これもよく聞かれますが、答えは「程度問題」です。
事業目的に記載がない事業を行ったからといって、会社法上の罰則があるわけではありません。定款の目的は会社の権利能力の範囲を画するものだとされますが、判例上は「目的の範囲外」を広く認める傾向にあり、事業目的に書いていない事業を行ったこと自体が即座に違法となるわけではないと解されています。
ただし、許認可の場面では記載がなければ申請が通らない。融資の場面では多すぎると何の会社かわからなくなる。取引先が登記事項証明書を確認した際に、事業と無関係な目的が大量に並んでいると不信感を持たれる可能性もある。
私の経験則として、10〜15項目が実務的なバランスだと思います。メイン事業1〜2個、関連事業3〜5個、将来の展開を見据えた事業2〜3個、許認可が絡む事業は正確な文言で1個ずつ。そして末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」を入れる。
この末尾の一文は定石です。包括条項とも呼ばれ、記載された事業目的に関連する事業であれば広くカバーする効果があります。テンプレートでも大抵入っていますが、たまに抜けているものがあるので確認してください。
1番目に何を書くか──意外と重要な「並び順」

事業目的の並び順に法律上の優劣はありません。ただし実務上は「1番目に書いてある事業がその会社のメイン事業」という認識が広く共有されています。
登記事項証明書を取得した相手が最初に目にするのがこの1行目です。融資審査の担当者も、許認可の窓口の職員も、取引先の与信部門も。1行目が「情報処理サービスの提供」なのに融資申請の事業計画が不動産仲介だったら、違和感を持たれます。
だからメイン事業は必ず1番目に。これだけで、登記事項証明書を見た人が「ああ、IT企業ね」「不動産会社か」と一瞬で分かる。地味だけど効果のあるテクニックです。
変更するときの手間を知っておく

事業目的は設立後に変更できます。ただし手続きは軽くありません。
株主総会の特別決議が必要で(会社法第466条)、決議後に法務局へ変更登記を申請します。登録免許税は3万円。処理に1〜2週間。許認可の申請を予定している場合、登記完了まで申請に進めないので、さらに待ちが発生します。
一人会社なら決議は形式的に済みますが、株主が複数いる場合は特別決議の要件(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を満たす必要があります。共同創業で関係が悪化していると、事業目的の変更すらできなくなるリスクもある。
設立時に事業目的を適切に設計しておけば、この手続きは完全に不要です。許認可に必要な文言を最初から入れておく。将来の事業展開を見据えた目的を含めておく。それだけで、数年後に3万円と2週間を使わなくて済む。
よくあるのが「まだ決まっていないから、とりあえず今やることだけ書いておこう」という判断です。気持ちは分かりますが、「近い将来やる可能性がある事業」は入れておいた方がいい。追加するのにお金がかかるけど、最初から入れておくのはタダですから。
「前各号に附帯関連する一切の事業」は万能か

末尾に入れる包括条項について少し補足します。
「前各号に附帯関連する一切の事業」と書いておけば何でもカバーされるのでは?と思う方がいますが、許認可の場面ではこの条項は機能しません。たとえば事業目的に宅建業に関する記載がなく、「前各号に附帯関連する一切の事業」だけがある状態では、宅建業の免許は取れません。許認可の審査では、当該事業そのものが具体的に記載されていることが必要です。
包括条項はあくまで「記載された事業に関連する範囲」をカバーするもので、まったく新しい分野の事業をカバーするものではないと解するのが妥当だと考えています。過信は禁物です。
具体的にどう書けばいいか──業種別の記載例

いくつかの業種について、実務上問題なく通る書き方の例を挙げておきます。
IT・システム開発
- コンピューターシステム及びソフトウェアの企画、開発、販売、保守
- インターネットを利用した各種サービスの提供
- 情報処理サービス業及び情報提供サービス業
不動産関連
- 宅地建物取引業
- 不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介
- 不動産に関するコンサルティング業務
建設関連
- 建築工事業の請負及び施工
- 土木工事業の請負及び施工
- 電気工事業
- 管工事業
人材関連
- 労働者派遣事業
- 有料職業紹介事業
- 人材育成のための教育及び研修事業
飲食・小売
- 飲食店の経営
- 食料品の販売
- 古物営業法に基づく古物商
コンサルティング
- 経営に関するコンサルティング業務
- 企業の経営管理及び経営戦略に関する助言
これはあくまで一般的な記載例であり、実際に許認可を取る場合は管轄の行政機関に事前に確認することを強くお勧めします。同じ「建設業」でも、東京都と大阪府で求められる記載の粒度が違うことがありますので。
よくある失敗パターン

実務で見てきた「やってしまいがち」な失敗をいくつか挙げておきます。
まず最近多いのが、freee会社設立やマネーフォワードの自動生成をそのまま使っているケース。これらのサービスでは事業目的を選択肢から選ぶ形式になっていて、「人材サービス」はあっても「労働者派遣事業」がない、「不動産」はあっても「宅地建物取引業」がない。自動生成された文面で許認可が通ると思い込んで、窓口で突き返されてから相談に来る方がここ数年で増えました。
一つ目は「コンサルティング業務」の濫用。事業目的に「経営コンサルティング業務」と書いておけば何でもカバーできると思っている方がいますが、これは包括的に見えて実は何の許認可にも使えません。宅建業のコンサルを名乗るなら宅建免許が必要ですし、税務のコンサルなら税理士法の問題が出てくる。「コンサルティング」はあくまで助言・提案の範囲であり、実務を行う許認可の代わりにはなりません。
二つ目は、同業者の登記事項証明書をそのまま真似るパターン。知り合いの会社の事業目的をコピーして使う人がいますが、相手の会社と自分の会社では業種も事業計画も違いますし、相手の事業目的が適切であるという保証もありません。何年も前に設立された会社の事業目的は法改正前の古い表記になっていることもあります。
三つ目は、将来の事業を入れすぎて「何の会社かわからない」状態。IT、不動産、飲食、人材、コンサル、EC、広告、教育──全部入れておけば安心と思うかもしれませんが、20個も30個も並んでいると融資担当者に「本業は何ですか?」と聞かれます。私が見てきた限り、事業目的が多すぎる会社は銀行口座の開設審査で時間がかかる傾向もあるように感じます。ネット銀行を中心に、法人口座の開設審査が厳しくなっている昨今、事業目的の適切さは口座開設にも影響しうるということです。
四つ目は意外と盲点なのですが、事業目的の表記と実際の事業のズレを放置しているケース。設立時はIT事業で始めたけれど、今はほぼ不動産仲介がメインになっている。でも事業目的はITのまま。これ自体に罰則はありませんが、新しい取引先から登記事項証明書を求められたときに「あれ、不動産会社じゃなかったんですか」と言われる。信用の問題として軽視しない方がいいです。
最後に
この記事で繰り返し書いてきたことですが、法務局で登記が通ることと、許認可や融資の場面で問題が起きないことは全然別の話です。「登記が通ったんだから大丈夫でしょ」と思っていると、許認可の窓口で初めて気づくことになる。設立を急ぐ気持ちはわかりますが、事業目的だけは30分かけて考えた方がいい。後から変更すると3万円と2週間がかかるので。
特に許認可が絡む業種で設立する場合は、その許認可の申請先に事前確認してから事業目的を決めるべきです。設立してから「この文言では受理できません」と言われるのが最悪のパターンで、定款変更+登記完了を待ってから再申請。1か月以上のロスになることもあります。
設立は一回きりの作業ですが、事業目的は登記事項証明書に載り続けます。取引先がふと確認したとき、融資を申し込んだとき、許認可を申請したとき。何年も先になって初めて「あのとき適当に書いたのがまずかった」と気づく人を、うちの事務所では年に何人か見ます。
30分でいいので、設立前に自分の業種の許認可要件を調べてください。調べ方がわからなければ、管轄の行政機関に電話すれば教えてくれます。
事業目的、設立前に確認しておきませんか?

許認可の申請で突き返される、融資審査で余計な説明を求められる──事業目的の書き方ひとつで起きるトラブルは、設立前に防げるものがほとんどです。迷っている方はご相談ください。
神戸の行政書士なら神戸北行政書士事務所|資金調達実績多数