経営戦略

自宅で菓子製造業許可は取れるのか、キッチンカーの営業許可はどう動くのか――食品衛生法改正後の現場を行政書士の目線で

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

「自宅のキッチンで焼き菓子を作って、ネットショップで売りたいんですが、許可って取れますか?」――顧問先のご紹介で来られた40代の女性は、にこやかな笑顔でそう切り出されました。。子育てが一段落して、長年の趣味だった焼き菓子をビジネスにしたい、というお話し。私が「販売するなら菓子製造業許可が必要で、自宅キッチンとは別の専用作業場を準備する必要があるんです」と説明したら、笑顔がふっと曇って、「別の部屋がいるんですか……」とつぶやいておられました。

別の日、30代後半のIT営業の男性が来られた時のお話しもセットで書いておきます。「キッチンカーで本格カレーを売りたい」と仰っていて、車両もほぼ決めかけている段階でした。私が「カレーの仕込みはどこでされる予定ですか」と聞くと、ご本人は「自宅マンションのキッチンで」と即答されました。残念ながら、それは原則NGですとお伝えして、こちらも空気が一段静かになりました。

食品ビジネスを始めるご相談を受けると、ほぼ毎回**「自宅キッチンの壁」**にぶつかります。普段の調理に使っている家族のキッチンで、商売として食品を作って売ることは、食品衛生法の枠組みでは原則認められていません。趣味で家族や友人に振る舞うのと、不特定多数のお客様に販売するのは、衛生管理のレベルが法律上まったく別物として扱われるからです。

私はもともとシステムエンジニアを9年やっていまして、当時の同僚や経営仲間の中で、脱サラして焼き菓子のネット販売を始めた女性、キッチンカーでカレーを売り始めた男性、それぞれを身近で見てきました。彼らが軌道に乗るまでの2〜3年の苦労、特に「自宅キッチンの壁」を超える段階での出費と工夫は、行政書士になった今でも、相談を受けるたびに思い出します。本記事では、自宅で菓子製造業許可を取るリアルと、キッチンカーの営業許可の現場を、両方の角度から整理していきます。

食品衛生法は2021年6月から少し変わっている

食品衛生法は2021年6月から少し変わっている

ネット検索で出てくる情報の中に、2021年6月の食品衛生法改正前のままになっているものが混ざっています。本記事を読み進めるうえで関係しそうな部分だけ、ざっくり書いておきます。

一番効くのは、キッチンカーの許可がメニュー別に分かれていたのが「飲食店営業」一本にまとまった、という変更です。これは申請する側からすると、迷う場面が減ってありがたい改正でした。あとは、衛生管理の記録を残す運用(HACCPに沿った衛生管理)が原則必須になっています。小規模な事業者は簡略版で対応できる仕組みになっていて、許可取得の段階で過度に身構える必要はないかなと思っています。

ここから先に書く話のどこまでが全国共通で、どこから自治体ごとに違うか――それを区別しながら読んでいただけると、ご自身のケースに当てはめやすいかと。**保健所ごとに運用差があるところは、その都度書きます**。

自宅で菓子製造業許可を取るリアル――条件と改装費

自宅で菓子製造業許可を取るリアル――条件と改装費

冒頭の女性のケースに戻ります。自宅で菓子製造業許可を取ることは、可能か不可能かで言えば**可能**です。ただし、条件は厳しい。

まず、**菓子製造業許可の対象範囲**を整理します。焼き菓子(クッキー、フィナンシェ、マドレーヌ)、パン、和菓子、洋生菓子(ケーキ、シュークリーム)、チョコレート、あん、これらを製造する場合は菓子製造業許可です。アイスクリーム類は別の許可(アイスクリーム類製造業)になり、ジュース・ジャム類はそれぞれ別許可になります。「お菓子全般」と思っていても、業種が分かれていることが多いので、最初の保健所相談で確認しておきたい部分です。

自宅で許可を取るときに、ほぼどの保健所でも見られるポイントを書いておきます。**ただし、ここから先は自治体差がそれなりにあります**。お住まいの管轄保健所での事前相談で必ず確認してください、というのが大前提のお話しです。

最大の難関が、**家族が普段使っているキッチンと、菓子製造に使う作業場の分離**です。シンクを1つ足せば済む話ではなくて、家族の生活動線と交わらない別空間として確保する必要がある、という運用が一般的です。1階の応接間を改装する、車庫の一部を区切る、増築する、というご相談が多いところ。マンションだと管理規約や排水の都合で実現しにくいことが多くて、戸建ての方のほうが選択肢は広い印象です。

それから、作業場への出入口を**自宅のリビングや廊下を通らず外から直接入れる構造**にしてほしい、と求められる保健所が多いです。これは「絶対」ではないんですが、私の事務所で関わったケースの大半で求められました。窓を改装してドアにする、勝手口を作業場の入口にする、という工事をされる方が多いです。お住まいの保健所で必ず確認してください。

床の話。水洗いができる素材(タイル、エポキシ樹脂など)と排水溝が要ります、というのが普通の運用ですが、ここも保健所によって細かく違うところで、フローリングのまま大丈夫だった例も中にはありました。一概に「住宅の床は全部ダメ」と言い切れる話ではないので、あくまで保健所での事前相談で確認、ということでお願いします。

シンクは、調理用と手洗い用を分けて設置するように言われるのが標準的です。調理用は二槽(仕切りのあるもの)、手洗い用は別途独立、足踏み式やセンサー式の非接触水栓が望ましい、という運用が多い印象。給水と排水の配管工事は、改装費の中でけっこうな割合を占めます。

**戸建てかマンションか、で実現可能性が変わります**。戸建てなら1階の一室を改装して条件を満たすケースがありますが、マンションは管理規約と排水・給水の制約で実現しにくい場合が多い。冒頭の女性は柏市の戸建てだったので、応接間を改装する選択肢が現実的でした。

**改装費の試算**は、シンプルなケースで**50万円前後**から、防水床と給排水を本格的にやり直すケースで**200万円超**まで幅があります。私の事務所でご相談いただいた範囲では、平均的に**80万〜150万円**のレンジに着地していました。これに食品衛生責任者の取得費用(1日講習・約1万円、ただし調理師・栄養士・製菓衛生師の資格をお持ちなら不要)と、申請手数料約14,000円が乗ります。

冒頭の女性とは、この改装費を聞いていただいたあと「もう少し小さく始める方法はありますか」とご質問をいただきました。

そういう時、私がよくお話しするのが**シェアキッチン**の存在です。許可付きで貸し出してくれるレンタル型のキッチンが、最近は東京・大阪あたりで増えてきていまして、月5万〜10万円くらいで使えるものが多いです。初期投資ほぼゼロで始められる代わりに、人気の時間帯は予約が取りにくいとか、自分の道具を持ち込みづらいとか、そういう不便さはあります。賃貸物件を別に借りて改装する道もありますが、家賃と改装費の両方が乗るので本気で事業化する人向け。

「いきなり100万円超を改装に注ぎ込むのは怖い」という方には、シェアキッチンで2〜3年運営してみて、売上が読めるようになってから自宅改装や賃貸に踏み切るルートをおすすめすることが多いです。ご相談にいらした女性も、結局このパターンを選ばれました。

販売チャネル別に必要な許可の整理――ネット販売・委託・イベント出店

販売チャネル別に必要な許可の整理――ネット販売・委託・イベント出店

菓子製造業許可があれば、**製造した菓子をどこで売っても基本的にカバーされます**。ネットショップでの直販、卸売り、イベント出店、フリマアプリでの販売、すべて同じ許可で対応可能です。

ただし、**販売の仕方によっては別の許可が乗る**場面があります。

**「店内で食べさせる」場合**。お店を構えてイートインコーナーを設けるなら、菓子製造業許可に加えて**飲食店営業許可**が要ります。コーヒーやお茶を出すなら、なおさら飲食店営業許可は必須。食べる場所を提供する以上、製造とは別の責任が発生する、という考え方なんだろうと思います。

**フリマアプリ・ネットショップでの販売**は、菓子製造業許可があればOKです。「メルカリで自家製クッキー」のような無許可販売は、食品衛生法違反になる可能性があるので、副業感覚で気軽に始める前に許可の確認を強くおすすめします。

**委託販売(パン屋・道の駅・百貨店への卸)**は、菓子製造業許可があれば商品を卸せます。卸先の事業者が販売する分は、卸先の責任になります。

**イベント出店(マルシェ、夏祭り、地域イベント)**は、自分の許可施設で製造した菓子をイベント会場で販売するなら追加許可は不要。イベント会場で**新たに調理する**(その場でクレープを焼く、たい焼きを焼くなど)場合は、**臨時営業の届出**が必要になります。臨時営業は申請から1週間程度で受理されるので、参加するイベントが決まったら早めに動くのが安全です。

**表示義務**にも触れておきます。包装されている菓子を販売する場合、食品表示法に基づくラベル表示が必要です。原材料名、内容量、消費期限、保存方法、製造者名と住所、栄養成分表示。これは菓子製造業許可とは別の食品表示法の話ですが、許可を取るタイミングで整備しておかないと、販売直前で慌てることになります。

キッチンカー営業許可の現場――タンク容量とメニューの関係

キッチンカー営業許可の現場――タンク容量とメニューの関係

ここからキッチンカーの話に移ります。冒頭のIT営業の男性のケースに戻りつつ。

キッチンカーの営業許可は、2021年6月の改正で**「飲食店営業」一本に統一**されました。改正前のように「メニューによって取る許可が違う」という煩わしさは解消されています。

申請先は、**「販売するエリア」を管轄する保健所**です。住所地の保健所ではない、という点で、初めての方が一度は引っかかるポイント。横浜市にお住まいで東京都内のオフィス街に出店するなら、東京都の保健所(営業エリアの管轄)に申請を出す必要が出てきます。複数のエリアで営業されるなら、各エリアの保健所にそれぞれ許可を取るか、後述する広域許可の運用が使えるかを確認する流れになります。

車両の設備の中で、メニューを左右する一番大事なポイントが**給水タンクの容量**です。タンクが大きいほど、車内で扱える調理の幅が広がる、と捉えていただければと思います。容量の区分や上限の運用は自治体差があるんですが、おおむね40L・80L・200Lあたりで段階が変わる、というのが私の知る範囲での運用感です。

具体的には、コーヒーのドリップやカキ氷、出来合いのスイーツを盛り付けて出すくらいの営業なら40Lで足りる。クレープや簡易な軽食、ホットドッグといった「ちょっと加熱や仕込みを伴うけれど大量の水は使わない」メニューなら80L前後。ラーメンや本格カレー、丼もの、揚げ物のように水を相当使うメニューになると、200Lクラスのタンクを積むことになります。冒頭のIT営業の男性のカレーは、煮込みと提供を車内で完結させる前提だったので、ここで200L一択になりました。

これを軽トラベースのキッチンカーに積もうとすると、車両の積載重量の限界に当たって難しい。結局、男性は1トン車ベースのキッチンカーに仕様変更されました。**車両を決める前にメニューを固める**、というのは、現場で繰り返し痛い目を見てきたから言える鉄則です。

ほかの設備としては、運転席と調理場が仕切られていること、足踏み式やセンサー式の手洗い水栓、二槽シンクと別の手洗いシンク、給水と同容量以上の排水タンク、メニューによっては冷蔵設備、というあたりが標準的に求められます。これらは保健所による車両検査で見られるところで、改造前に「うちの保健所で何が必須か」を相談しておかないと、買ってから手戻りになります。

それから、複数の都道府県で営業を考えている方への補足。隣接する県との間で「一度の許可で両方使える」運用が組まれている地域もあれば、別途取り直す必要がある地域もあって、これは本当に自治体によります。広域許可、相互乗り入れ、車庫地の扱い、このあたりは申請前に営業予定エリアの保健所へ個別に問い合わせるのが結局のところ一番早い、というのが私の感覚です。

キッチンカーの最大の壁――「仕込み場所」の確保

キッチンカーの最大の壁――「仕込み場所」の確保

キッチンカーの営業許可で**最大の難関**になるのが、**仕込み場所の確保**です。これを書かずにキッチンカーの記事を終えると、現場で詰まる方が量産されてしまいます。

仕込み場所というのは、車両に積み込む前段階で食材の下処理(野菜のカット、肉の下味、ソースの製造など)をする場所のことです。原則として**自宅キッチンは仕込み場所として認められません**。家族と共用するキッチンは衛生管理の証明が困難で、保健所が許可を下ろさないからです。

じゃあ、どこで仕込めばいいのか。実務上は、自宅とは別の場所で飲食店営業許可付きの施設を確保する方法がいくつかあります。

一番自由度が高いのは、自分で別の場所を借りて飲食店営業許可を取ってしまうパターン。家賃と申請費用は当然乗ってきますが、自分のペースで使えます。次に、最近増えてきている許可付きのシェアキッチン(コミッサリーと呼ばれることもあります)を月額で借りる方法。東京・大阪などの大都市圏で月5万〜15万円くらいが相場の印象です。あとは、知り合いのレストランや個人店と話をつけて、営業時間外に仕込み場所として使わせてもらうパターン。これは書面で利用承諾をいただいて、保健所に届け出る形になります。どれが現実的かはご本人の事情と地域次第なので、保健所の事前相談で「うちの場合はどれが使えますか」と確認するのがいいかと思っています。

冒頭のIT営業の男性のケースでは、川崎市のマンションで仕込みをするのは無理だとお伝えしたあと、横浜市内の許可付きシェアキッチンを提案しました。月8万円のコミッサリーが営業候補地から通える距離にあって、そこを仕込み場所として確保。キッチンカーの保健所届出に「仕込み場所:横浜市○○の許可施設」を明記する形で、無事に許可が下りた、という流れでした。

**自宅マンションで仕込みをして摘発されるパターン**は、思った以上によく耳にします。匂いや煮込みの音で近隣からクレームが入って、保健所が立ち入り検査に来て、自宅キッチンで仕込みをしている実態が判明する、という構図。許可取消や営業停止になる可能性があるので、本当におすすめできないお話しです。

仕込み場所の確保は、**車両を買う前に決めておく**のが鉄則です。車両だけ用意しても、仕込み場所がないと許可が下りません。冒頭の男性は車両発注前に相談に来てくださったので軌道修正できましたが、車両を買ったあとに「仕込み場所がない」と気づくと、家賃を払いながら営業できないキッチンカーを抱える事態になり、本当に痛い。

自分でやるか、行政書士に頼むか――判断軸

自分でやるか、行政書士に頼むか――判断軸

最後に、依頼するかどうかの判断軸を書きます。

**菓子製造業許可は、比較的シンプルな申請**です。施設基準が満たされていれば、保健所への事前相談から許可交付まで、自力で進められる方が多いです。書類は数枚、施設検査は事業者本人が立ち会う、というシンプルな構造。報酬を払って行政書士に頼むメリットは、改装業者との橋渡し(保健所基準を満たす設計の助言)と、申請書類の代行作成あたりに限られます。私の事務所では、菓子製造業許可単独のご依頼は**5〜8万円程度**で受けることが多いです。自力でやれそうなら、保健所相談からスタートして、行き詰まったら相談、というスタンスでもよいと思います。

**キッチンカーは、仕込み場所が絡むケースで複雑になります**。車両のスペック選定(タンク容量、設備)、仕込み場所の確保、複数都道府県での営業計画、これらが組み合わさると、自力で動くと相当な時間を要します。仕込み場所付きの許可取得セットでご依頼いただくなら、**8〜15万円程度**の報酬が目安です。

行政書士を選ぶ際は、**食品衛生法改正後の許可に強い事務所**を選ぶのがコツです。改正で運用が変わった部分(HACCP対応、許可業種の再編、キッチンカーの統一など)を把握していない事務所だと、古い情報で進めてしまうリスクがあります。事務所のウェブサイトで「2021年6月改正後の」「HACCPに沿った」のような記述があるか、確認するとよいかと思います。

「自分で保健所に相談に行ってみる」のは、**学びとしては大いにアリ**です。担当官との会話で、自分のケースの肝が見えることも多い。事業者本人が現場感を持っているかどうかが、許可取得後の運営にも効いてくるので、丸投げよりは関与しながら進めるほうが、長い目で見ると安心です。

おわりに――「自宅キッチンの壁」を超えるか

冒頭の40代女性とIT営業の男性、お二人とも今は無事に営業を続けておられます。女性は応接間を改装して自宅菓子製造業許可を取得し、月20〜30万円の売上が立つネットショップを軌道に乗せた。男性は1トン車のキッチンカーと月8万円のコミッサリーでカレー店を始めて、平日のオフィス街と週末のイベント出店で月60〜80万円の売上ペースに到達されています。

食品ビジネスを始める時、最初にぶつかるのが「自宅キッチンの壁」。趣味の延長で気軽に始めたい気持ちと、不特定多数のお客様に売る責任は、衛生管理のレベルがまったく違うんです。改装費・許可取得・仕込み場所の確保という初期投資の壁を、副業レベルから超えるのは、本当にしんどいお話し。シェアキッチンや小規模スタートで試して、軌道に乗ってから本格設備に投資する、というルートが、現実的にはおすすめだと感じています。

食中毒のような取り返しのつかない事故は、衛生管理を本気でやらないと起こります。許可取得は、事業を始める権利を得るプロセスであると同時に、お客様の健康を守るための仕組みでもある。そんな捉え方で関わっていただけると、長く続く食品ビジネスにつながるんじゃないかと思っています。

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菓子製造業許可・キッチンカー営業許可、迷う前にお話しを聞かせてください。

「自宅で焼き菓子を売りたい」「キッチンカーで独立したい」――その第一歩で、何を確認すれば、いくらかかって、いつから営業できるかが見えてきます。改装するか、シェアキッチンを使うか、賃貸を借りるかの判断軸も含めて、一緒に整理させていただきます。物件契約や車両発注の**前**にご相談いただけると、無駄な出費を避けやすいです。

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