経営戦略

「会社設立費用の内訳、結局いくらですか」と聞かれて、私が「最低6万円です」と即答しなくなった理由――株式会社・合同会社の設立費用を実務の目から

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

実は私自身、自分の1社目を立ち上げた時、ネット記事の「最低6万円」を信じて合同会社を作りました。。資本金10万円、電子定款、自分で法務局に行って登録免許税6万円を払って完了。「ほら見たことか、6万円で作れるじゃないか」と当時はちょっと得意でした。

ところが、その3か月後に取引先からの入金口座を作るために銀行を回ったら、3行とも連続で断られた。理由は明示されないものの、窓口の方の口ぶりからして「資本金10万円というのは事業実態を確認しづらい」というニュアンスがにじんでいました。仕方なく増資して資本金を100万円まで引き上げる登記をやり直し、登録免許税3万円。それまで開けていた事業計画書も書き直して銀行に再持参して、ようやく口座が開きました。最初の入金が予定より2か月遅れたので、もし大口顧客との契約時期がずれていたら、もっと厄介な事態になっていたかもしれません。

このとき正直に思ったのは、「設立費用を3万円ケチったつもりが、結局3万円の追加登記費用+2か月の機会損失で、何倍も損をした」ということです。事業として動き始めてから直すのは、本当にコストが膨らむんです。

これが、私が設立費用の相談を受けるたびに「もうちょっと事業の中身を聞かせてもらえますか」と返すようになったきっかけです。本記事では、株式会社と合同会社それぞれの設立費用の内訳を、自分の失敗談と顧問先の事例も交えて整理していきます。

私はもともとシステムエンジニアを9年やってから、自分で会社を2社立ち上げて、うち1社は事業売却(Exit)まで経験しました。いまは行政書士として会社設立に関わっています。設立費用の数字を「最低額」だけで答えていると、後で必ず手戻りが出てくる──というのは、自分が一度ハマった人間としての偽らざる実感です。

株式会社の設立費用の内訳は、2024年12月で「ちょっと楽になった」部分があります

株式会社の設立費用の内訳は、2024年12月で「ちょっと楽になった」部分があります

株式会社にかかる法定費用の内訳は、登録免許税、定款認証手数料、定款の収入印紙代、定款の謄本手数料という4つの塊で構成されています。これに資本金と、もし依頼するなら専門家報酬が乗ってくる形です。

このうち、登録免許税は「資本金の額×0.7%」と「15万円」の高い方。資本金が約2,143万円を超えると0.7%の方が上回りますが、中小企業の創業ではほぼ全員が15万円ぴったりに着地します。これは昔から変わっていません。

ここで、知っているかどうかでまるごと半額になる制度を一つ。市区町村の「特定創業支援等事業」の認定を受けると、登録免許税が**半額**になります。株式会社で7万5,000円、合同会社で3万円。要件は自治体差があるものの、創業セミナーや個別相談を一定回数(多くの自治体で4回程度)受けるだけで認定が取れます。私の事務所では、設立日に余裕がある方には必ずこの制度を案内していて、使わない理由がほぼ無いと考えています。窓口は市区町村なので、最寄りの役所の創業支援窓口に電話一本で確認できます。

さて、変わったのは定款認証手数料の方です。2024年12月1日に公証人手数料令の改正が施行されて、これまで「100万円未満:3万円/100万円以上300万円未満:4万円/300万円以上:5万円」だった体系のうち、100万円未満の部分が条件次第で**1万5,000円**まで下がりました。

ただ、誰でも下がるわけではありません。次の3つを全部満たした場合に限られます。

  • 発起人の全員が自然人で、人数が3人以下であること
  • 定款に、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨が書かれていること
  • 定款に、取締役会を置く旨が書かれていないこと

一人社長で資本金100万円未満、取締役会を置かないスタートアップは、この3つに自然と全部当てはまります。私の事務所で扱う直近の新規設立だと、6割くらいがこの軽減対象でした。「3万円が1万5,000円になります」と伝えるたびに、依頼者の方の表情がほっとするのが見ていて分かります。

注意点が一つだけ。経過措置として、定款認証の嘱託(申し込み)が2024年11月30日以前のものは、認証日が12月以降であっても旧額(3万円)が適用されます。日本公証人連合会の発表で明示されていて、知らずにやると損をします。設立スケジュールがちょうどこの境目をまたぐ方は、嘱託日に注意してください。

ちなみに、3要件のうち「取締役会を置かない」というのは、ベンチャー界隈の方には少し抵抗があるかもしれません。ただ、創業期に取締役会を置くメリットは正直限定的で、置かない方が機関設計がシンプルになり、毎年の運用負荷も軽くなります。資金調達ステージが進んで取締役会を置く必要が出た時に変更すれば足ります。創業時点で取締役会を置く理由がよほど明確でなければ、ここは「置かない」を選ぶのが実務上の合理解だと考えています。

3つ目の収入印紙代は、紙で定款を作ると印紙税法によって4万円、電子定款(PDF+電子署名)なら0円。これは昔から同じです。専門家に頼めばほぼ確実に電子定款で進めるので、ここは依頼料の中で実質吸収されると考えてもらえれば大丈夫。

4つ目の謄本手数料は1ページ250円で、株式会社の定款は8〜10ページなので2,000円前後。これは細かいので資金計画上は気にしなくてもいいレベルです。

これを全部足すと、最安構成(資本金100万円・3要件該当・電子定款・特定創業支援等事業の半額適用)で約9万7,000円。フルコース構成(資本金300万円以上・要件非該当・紙定款・特定創業支援なし)で約24万2,000円。同じ株式会社でも14万円以上の差が出る計算で、知っているかどうかが効く領域だなと感じます。

合同会社の設立費用の内訳――「6万円」が、現場では9〜10万円になる理由

合同会社の設立費用の内訳――「6万円」が、現場では9〜10万円になる理由

合同会社に話を移します。

ネット記事で目にする「合同会社は6万円で作れる」は、嘘ではないです。法定費用としては登録免許税6万円のみ。会社法上、合同会社の定款は公証人の認証を要件としていないので、株式会社で1万5,000円〜5万円かかる認証手数料が丸ごと不要。電子定款にすれば印紙代4万円も0円、謄本も発生しない。だから、純法定費用は6万円きっかりです。

ただ、私が現場で見ている合同会社設立の現実額は、もう少し膨らみます。膨らむ理由はいくつかあって、

印鑑です。合同会社でも代表者印(実印)は登記時に必須で、銀行口座開設には銀行印、請求書発行には角印(社判)があったほうが事務がスムーズに回ります。3本セットで通販なら1万円前後、ハンコ屋さんで素材にこだわると3〜5万円もありえる。代表者印は設立日の1〜2週間前には発注を済ませておかないと、納期で詰みます。「設立日を決めたら印鑑を発注」と覚えておくのが吉だと思います。

それから、印鑑証明書と住民票も無視できません。代表社員1人なら印鑑証明書1通300円程度で済みますが、社員が複数いるなら人数分。設立後、税務署や銀行や許認可窓口に提出する登記事項証明書を5〜10通取得すると、それだけで3,000〜6,000円ほど出ていきます。

そして、自分で電子定款を作る場合の機材コストも忘れがちな出費の一つです。これがネット記事ではあまり触れられていない部分でして、マイナンバーカード(電子証明書付き)、ICカードリーダ(2,000〜4,000円)、Adobe Acrobatの電子署名対応版(年間2万円前後のサブスク)、登記・供託オンライン申請システムの利用環境を一通り揃える必要があります。一から準備すると、印紙代4万円を浮かせるために2万〜2万5,000円の初期投資が必要となり、設立1回限りで使うなら節約効果は実質1万5,000円ほどに目減りします。Acrobatを業務で使う方ならもとは取れますが、設立だけのために導入するのは正直割に合わないと思われます。

そんなこんなで、合同会社の現実額は**8万〜10万円**のレンジに着地するケースが多いです。「6万円で作れます」は法定費用の床値の話で、印鑑代も証明書代も電子定款の環境構築も全部入れた数字ではない、ということ。

ここでもう一つ、冒頭の自分の話に戻します。1社目を立ち上げた時、私は資本金10万円で詰まりました。資本金1円・10万円・100万円・500万円のどれが正しいか、というのは画一的な答えがあるものではないです。ただ、銀行口座開設、取引先与信、許認可(必要な場合)、融資審査――このどれかでつまずくと、たいてい増資をすることになります。増資のコストは登録免許税3万円+(依頼すれば)司法書士報酬3〜5万円。最初から100万円なり300万円なりで設定していれば、この出費は丸々ゼロでした。

「資本金は1円から作れる」は本当ですが、「1円で実質的に運営できる」とは限らないというお話しです。

設立費用の話で本当に困るのは、表に出てこない費用の方

設立費用の話で本当に困るのは、表に出てこない費用の方

ここから少し、現場で「忘れてた」と一番言われやすい話を書きます。

許認可業種です。建設業(知事許可・新規)9万円、宅建業(知事免許・新規)3万3,000円、古物商許可1万9,000円、産業廃棄物収集運搬業許可8万1,000円、一般貨物自動車運送事業許可12万円、飲食店営業許可1万8,000円前後(自治体差あり)。これらは会社設立とは別の財布で考えがちですが、創業初期のキャッシュアウトとしては同じ財布です。

しかも厄介なのは、許認可は「設立後の登記事項証明書」が要件になることが多いので、「会社設立→登記完了→登記事項証明書取得→許認可申請→審査→事業開始」という時系列の数珠つなぎになる点。ここを見落としていると、事業開始予定日から逆算してスケジュールを引き直す羽目になります。過去に建設業の許可を急いでいた依頼者の方で、設立日と許認可審査の重なりを甘く見ていて、結果的に2か月家賃を空払いした、という痛い経験を私もしました。

それから、許認可絡みでもう一つ大事な話。許認可が必要な業種で会社を作るなら、定款の事業目的に「正確な文言」を入れる必要があります。建設業なら「建築工事業」「土木工事業」のように具体的な業種名を、宅建業なら「宅地建物取引業」、人材派遣なら「労働者派遣事業」。「不動産業」や「人材紹介」では駄目なケースがあるんです。これがテンプレ定款の落とし穴で、設立後に目的変更登記をやり直すと登録免許税3万円+2週間のタイムロス。許認可申請がそのぶん後ろ倒しになり、これも痛い。

去年関わったケースで印象に残っているのは、システム開発の会社を経営されていた方が、新規事業で宅建業の免許を取りたいと相談に来られた件です。設立時の定款を確認したら、事業目的に不動産関連の文言が一切入っていない。「情報処理システムの開発・運用」「経営コンサルティング業務」だけ。宅建業免許の窓口で受理を拒否され、臨時株主総会を開いて議事録を作って、目的変更登記を申請。登録免許税3万円と約2週間。予定していた店舗物件の契約も遅延が出ました。設立時に「宅地建物取引業」の一行を入れておくだけで、この費用も時間もゼロだったわけです。テンプレで設立したと聞いて、合点がいきました。

──ここでちょっと話が逸れます。私はエンジニア時代、データベースのテーブル設計で似た経験を何度もしました。本番稼働してからカラムを足したり型を変えたりするのが、どれだけ大変か。設立時の定款は、まさに同じ性質の話だと思っています。動き始めてから直すと、コストも時間も何倍にもなる。最初に少し考えれば、後でやり直す必要がない。ソフトウェアの設計と会社設立は、構造が完全に同じです。

オフィスや什器の準備費用は、ここでは一気に流します。事務所を借りるなら保証金が家賃の6〜12か月分。在宅やバーチャルオフィスなら数千円〜数万円で済みますが、後で本店所在地の変更登記をすることになると登録免許税が3万円かかる。だから、本店所在地は定款には最小行政区画(「東京都渋谷区」など)までで止めて、番地まで書かないのが定石。これは知っているかどうかだけのお話しなので、ここで知っておいてください。

ここまで全部含めて、株式会社で**現実額30〜50万円**、合同会社で**15〜30万円**くらい。ネット記事の「24万円」「6万円」は法定費用の床値で、設立に「実際に必要なお金」とは別物だと考えていただく方が安全です。

自分で作るか、誰かに頼むか

自分で作るか、誰かに頼むか

「専門家に頼めば報酬が上乗せだから割高じゃないか」と思われる方、多いです。私自身が依頼を受ける立場なので客観性は怪しいですが、率直に書きます。

合同会社で、業種に許認可が不要で、共同経営者がいなくて、書類作成に苦手意識がない方なら、自力でやって3〜5万円浮かせる選択は合理的だと思います。私も自分の1社目はそれで作りました(その後の銀行口座と増資の話は前述の通りですが)。

逆に、許認可が絡む、共同経営者が複数いる、設立日が決まっていてスケジュールが厳しい、というケースだと、専門家に頼んだほうが結果的にトータルコストが下がる可能性が高い。手戻りで定款変更を2回やると、登録免許税6万円+手続き停止4週間で、専門家報酬を払うのとほぼ同額になりますから。

行政書士の相場は5万〜10万円、司法書士は8万〜15万円、税理士は顧問契約セットで無料〜5万円というのが目安です。どれを選ぶかは「許認可があるか」「登記まで一括で頼みたいか」「設立後の税務をどうするか」で変わります。私の事務所だと、許認可と設立をまとめて受けるご依頼が多いです。これは事業目的の文言を最初から許認可の審査基準に合わせて組めるので、設立後に目的変更登記(3万円+2週間)をしなくて済むのが一番のメリットだと言ってもらうことが多いです。

「時間と精神的な負荷をいくらと評価するか」――結局はそこに尽きるんじゃないかと思います。私自身、自分の1社目で2か月家賃を空払いした経験があるので、「数万円浮かせて2か月遅らせる」より「数万円払って予定通り進める」方が、トータルでは安くつくケースが多いと感じています。もちろん全員に当てはまる話ではないですが、判断軸の一つとして書いておきます。

設立費用より、設立後の固定費に驚くケースの方が多い

設立費用より、設立後の固定費に驚くケースの方が多い

これはおまけの話のようでいて、実は本記事で一番伝えたい部分かもしれません。

法人住民税の均等割は、赤字でも年間7万円が問答無用で出ていきます(資本金1,000万円以下・従業員50人以下の最小規模)。社会保険料は役員1人だけの会社でも加入義務があって、役員報酬30万円のケースで会社負担分が月およそ4万5,000円。決算公告は株式会社のみ年6万円前後。役員の重任登記は株式会社で2年ごとに1万円。税理士の顧問料は月3万〜5万円が標準です。

これを全部足すと、株式会社で年間100万〜150万円、合同会社で年間70万〜100万円程度の固定費が、設立した瞬間から発生する計算になる。設立費用が30万円で済んだとしても、1年目に必要な総額はその数倍にのぼります。私自身、自分の会社を立ち上げた1年目に「こんなに固定費が出ていくのか」と肝を冷やした経験があるので、依頼者の方には設立**前**の段階で「設立費用+運転資金6か月分」を最初に確保してください、と強めにお伝えしています。

特に意外と効くのが社会保険料です。役員1人だけの会社でも、健康保険と厚生年金への加入は法的な義務で、これは「うちは小さいから」という話で逃げることができません。私が1社目を立ち上げた当時、自分の役員報酬を月50万円に設定したら、社会保険料の会社負担分が月7万5,000円ほどになって、年間で約90万円。これが「経費になるからまあいいか」と思っていたら、銀行口座への入金タイミングと支払いタイミングが微妙にずれていて、毎月のキャッシュフローでヒヤヒヤしました。社会保険料は給与からの源泉徴収と会社負担分の合計を翌月末に納付する仕組みで、入金が遅い月だと建て替えに近い形になる。役員報酬を決める時は、額面だけでなく社会保険料の納付スケジュールまで見ておくと、後で苦しまずに済みます。

家賃、人件費、仕入れ、広告、税金、社会保険料の半年分。業種・規模で変動するのですが、ざっくり300万〜1,000万円のレンジに入る方が多いです。資本金は1円でも法律上は作れますが、現実的にはこの運転資金分を資本金として入れておくほうが、銀行口座も融資審査もスムーズに進みます。資本金1,000万円以上にすると初年度から消費税の課税事業者になるので、できれば999万円以下に止めるのが定石、というのは付け加えておきます。

おわりに

会社設立費用の数字を伝えるだけなら、極論「合同会社・電子定款・特定創業支援なら3万円」「株式会社・3要件該当・電子定款・特定創業支援なら9万7,000円」と書けば終わります。実際そう書いている記事も多い。

ただ、その数字だけを信じて作ってしまうと、銀行口座が開かない、許認可で詰まる、増資で再登記する、というところで結局お金が出ていく。私自身がそれを体験したので、依頼者の方には同じ轍を踏んでほしくない、というのが正直なところです。

2024年12月の認証手数料の改定は、小規模株式会社にとって本当にありがたい変更です。3要件に該当するなら、ぜひ使ってもらえたらと思います。一方で、「最低6万円で作れます」という言葉だけで動くと、後から何倍ものコストを払うケースが続出します。最低額と現実額の差は、知っているかどうかだけの差です。

設立は一度きり。でもその定款と資本金は、会社が続く限り効いてきます。最初の段階でどこまで考えるかで、その後の手間が大きく変わる、というところだけは、最後にもう一度書いておきたいと思います。

エンジニア時代の経験で言うと、本番稼働前のデータベース設計はいくらでも変えられるのに、稼働後のテーブル変更は何倍ものコストがかかる、というのは現場の人間ならよく知っている話です。会社設立も同じで、設立前なら定款の文言も資本金も自由に決められます。事業が走り出してから直すのは、登記費用だけの問題ではなくて、その間ストップする業務、待たされる取引先、後ろ倒しになる許認可審査、と全部が連動して効いてくる。私は法律の専門家として書いていますが、構造としてはまったくシステム設計と同じだと思っているので、そこだけは強調させてください。

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