「来月にはオープンしたいんですが、何から手を付ければいいですか」――この問い合わせを、元会社員の方から受けたのは梅雨の入った金曜の夕方でした。。15年勤めたIT企業を退職して、バーテンダーの友人と一緒にバーを開業すると決めて、すでに渋谷の物件を契約し、内装業者との打ち合わせも始まっている、というお話し。物件は決まっているし、内装も動いている、だから残るは書類だけ、というのが本人の認識でした。
私が「物件の用途地域は確認されましたか」と聞いた瞬間、ご本人の表情が引きつりました。「用途地域、というのは何ですか」――この時点で、来月のオープンが厳しいかもしれない、という空気が私の中で漂い始めました。最終的にこの方は、用途地域の問題は無事クリアできたものの、客室の構造で警察署からの指摘が入って、内装をやり直すことになり、オープンが約1か月半ずれ込んでいます。
私はもともとシステムエンジニアを9年やっていまして、当時の同僚や経営仲間の中には脱サラして飲食店やバーを始めた人が何人もいました。彼らから「警察への届出が思ったより面倒だった」「物件選びで失敗した」という愚痴を、雑談で何度も聞いてきました。自分も会社を経営していた時期があるので、物件契約から内装、オープンまでの数か月の慌ただしさは、頭ではなく体で知っている実感があります。
本記事では、バー開業に必要な届出と「深夜酒類提供飲食店」の手続きについて、書類の話だけでなく、**物件契約の前に確認すべきこと**から順番に整理していきます。書類リストだけ並べても、実際の現場では動けないんです。
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バー開業に必要な「2つの資格+5つの届出」の全体像

最初に、バー開業に必要なものを俯瞰しておきます。これは「2つの資格」と「5つの届出」に整理できる構造になっています。
**2つの資格**
1つ目は**食品衛生責任者**。飲食店を営業するなら必須で、各都道府県の食品衛生協会が開催する1日の講習を受講して取得します。費用は1万円前後、受講後すぐに資格証が発行されます。すでに調理師免許や栄養士免許をお持ちの方は、講習なしで食品衛生責任者を兼ねられるので、確認しておく価値があります。
2つ目は**防火管理者**。これは収容人数が30人以上の店舗で必要になる資格で、甲種(延床面積300㎡以上)と乙種(300㎡未満)の区分があります。日本防火・防災協会の講習で取得し、甲種で2日間・約8,000円、乙種で1日・約7,000円。小規模なバーであれば収容30人未満で防火管理者は不要、というケースもあります。
**5つの届出**
1. **個人事業の開業届**。税務署に開業から1か月以内に提出。法人設立の場合は法務局での設立登記が先になります。
2. **飲食店営業許可**。保健所への申請で、店舗検査が入る2〜3週間のプロセスです。深夜営業をするバーでも、まず飲食店営業許可を取らなければ次の警察への届出に進めません。
3. **深夜酒類提供飲食店営業開始届出**。本記事の中心的なトピックで、警察署経由で公安委員会に提出する届出です。営業開始の10日前まで(風営法第33条)。
4. **防火管理者選任届出**。収容30人以上の場合、消防署に提出。
5. **防火対象物使用開始届出書**。内装工事完了後、消防署に提出。これは規模に関わらず必要になります。
時系列で言うと、物件契約 → 食品衛生責任者の取得 → 内装工事と並行で開業届・飲食店営業許可申請 → 内装完成 → 飲食店営業許可取得 → 深夜酒類届出 → 受理から10日後にオープン、という流れになります。物件契約からオープンまで、最短でも**2〜3か月**を見込んでおくのが現実的だと感じています。
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物件契約の前にやるべき5つの確認――ここで間違うと取り返しがつかない

冒頭の元会社員の方が引きつった「用途地域」の話に戻ります。
バー開業で最も痛いミスは、書類の不備でも内装の遅れでもなく、**物件選びの段階での見落とし**です。物件を契約してしまった後で「ここでは深夜営業ができません」と判明すると、家賃を払いながら届出が出せない、という事態になり、最悪の場合は物件を解約して別の場所を探し直す羽目になります。
物件契約の前に確認していただきたいのは、次の5つです。
**① 用途地域の確認**
都市計画法上、土地は13種類の用途地域に分類されています。深夜酒類提供飲食店の営業ができるのは、**商業地域、近隣商業地域、準工業地域**などに限られていて、**第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、田園住居地域では営業できません**。市町村のホームページで「○○市 用途地域マップ」のように検索すると、地図で確認できます。物件の所在地番を入力するだけで判定できる自治体も増えていて、最初の最初に確認しておきたい項目です。
**② 客室の床面積9.5㎡以上が取れるか**
風営法施行規則で、個室が複数ある場合は**客室の床面積が9.5㎡以上**であることが求められます。カウンター席だけの一体空間ならこのルールはあまり問題になりませんが、個室席を作る場合は1部屋あたり9.5㎡以上必要です。間仕切りを使ってブース席を作る計画なら、各ブースが9.5㎡を超えないと届出が通りません。
**③ 客室内に見通しを妨げる設備がないか**
ボックス席のような高い間仕切り、衝立、衝立効果のある観葉植物、これらが「見通しを妨げる設備」と判断されると届出が受理されません。「お洒落な隠れ家バー」を目指して半個室を作ろうとして、後で警察から指摘されるケースを何度も見ました。バー特有の暗い照明と相まって、見通しの悪さは特に厳しく見られる傾向にある印象です。
**④ 物件オーナーから「使用承諾書」が取れるか**
賃貸物件の場合、物件オーナーが「深夜酒類提供飲食店として使用してよい」という使用承諾書を出してくれるかどうか、契約前に確認しておく必要があります。「居酒屋ならOKだけどバーはNG」「深夜営業は近隣からのクレームを心配して許可しない」というオーナーは普通にいらっしゃるので、賃貸借契約書に「飲食店として使用可」と書かれていても安心はできない、ということです。
**⑤ 近隣の保育園・学校との距離**
各都道府県の風営法施行条例で、保育園・学校・病院などからの距離制限が定められています。距離は自治体差があり、東京都の場合は深夜酒類提供飲食店の制限は風俗営業ほど厳しくありませんが、地域によっては引っかかるケースがあります。物件選びの段階で、近隣施設の地図確認はしておきたいところです。
これら5つを物件契約の**前**に確認しておけば、契約後に「届出が出せない」という最悪の事態は避けられます。冒頭の元会社員の方は、用途地域は商業地域でクリアでしたが、見通しを妨げる設備で内装やり直しになりました。物件選びの時点で内装業者と一緒に風営法のチェックリストを共有していたら、防げたお話しだと感じています。
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深夜酒類提供飲食店の届出――必要書類と提出のリアル

物件と内装が整ったら、いよいよ届出です。
**届出が必要な条件**は、午前0時以降に酒類の提供をメインとする飲食店、というものです。深夜営業のファミリーレストランやラーメン屋は「食事提供がメイン」なので届出不要、バー・居酒屋・スナック(接待なし)・ダイニングバーは「酒類提供がメイン」なので届出が必要、という線引きになります。「酒類提供がメインかどうか」の最終判断は所轄の警察署が下すので、グレーな業態(小料理屋、おでん屋、焼鳥屋など)は事前に警察署の生活安全課へ相談しておくほうが安全です。
**必要書類**は、おおむね10種類です。
深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書(別記様式第47号)、営業の方法を記載した書類(別記様式第48号)、営業所の平面図、営業所求積図、客室求積図、照明・音響設備配置図、住民票(本籍記載のもの、法人なら役員全員分)、飲食店営業許可証の写し、賃貸借契約書と使用承諾書の写し、メニュー表。法人の場合は定款の写しと登記事項証明書も追加されます。地域によっては用途地域証明書も必要です(神奈川・千葉・埼玉の警察署は要求するケースが多い印象)。
**図面作成が、一般人には本当に難しい**部分です。営業所求積図は柱の中心線で測量して面積を求める必要があり、客室求積図は客席部分のみを区切って求める必要があります。1/50または1/100の縮尺で、A4またはA3サイズで作成。建築や内装の経験がない方が自力で書こうとすると、ここで何回も警察署から戻されます。私の事務所では、内装業者の方が描いた図面をベースに、警察署用の様式で清書する形で対応していますが、内装業者と行政書士が早い段階から図面を擦り合わせるのが、結局はいちばん早道になります。
**提出から営業開始まで「10日後」**というルールがあります。届出が受理された日(受付印が押された日)から数えて10日経過した日以降でなければ、深夜営業を始められません。これは届出制であって許可制ではないのですが、行政側が内容を確認するための期間が法律上設けられている、という理解です。受理を「10日前まで」と覚えるより、**「オープン予定日から逆算して、最低14日前には申請の予約を入れる」**くらいの余裕を持って動くのが現場感覚としては正解です。
そして、**ローカルルール**の話。同じ警察署でも、担当官の運用によって「使用承諾書の様式」「メニュー表の記載粒度」「図面の凡例の書き方」などが微妙に違います。渋谷警察署、新宿警察署、池袋警察署、麻布警察署、それぞれに「ここの担当はこの書類の書き方にこだわる」という肌感の違いがあります。風営法専門の行政書士事務所が、地区別の記事を持っているのは、こういう運用差が現場にあるからです。
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接待の境界線――ガールズバー・コンセプトカフェの摘発が増えている話

ここからは、本記事で一番慎重に書きたい部分です。
深夜酒類提供飲食店は、風俗営業(接待を伴う飲食店)とは別の枠組みで、**接待行為が禁止**されています。風営法第2条で接待は「歓楽的雰囲気を醸し出す方法によって客をもてなすこと」と定義されていて、運用上は次のような線引きで判断されています。
**接待にならないとされる行為**
カウンター越しに常連さんと会話する。お酒を作ってお客さんに提供する。注文を取る、会計をする、退店時に挨拶する。料理を運ぶ。適度な距離感を保ちつつ、お店全体のサービスをする。これらは「通常の飲食店としての接客」の範囲で、接待には当たりません。
**接待に該当する行為**
特定のお客さんの隣に長時間座って、継続的にお酒を作って勧める。指名制度を導入する。同伴を促す。デートクラブのような形で店外に同席する。過度なボディタッチを伴う接客。これらは接待として風俗営業(1号営業)の許可が必要になり、深夜酒類提供飲食店の届出だけでは違法営業になります。
問題は、**この境界線がグラデーションになっている**ことです。「カウンター越し」と「継続的な接客」の間には、現場では灰色の領域がたくさんあります。「カウンター越しに2時間喋っているけど、隣には座っていない」「特定のお客さんに何度もお酒を作っているけど、指名制度ではない」――こういう運用が、警察の摘発で「実質的に接待」と判断されるケースが、コロナ禍以降は増えてきている印象です。
特に**ガールズバーとコンセプトカフェ(メイドカフェ・執事カフェ・アニメコンセプトのバー)の摘発**が、ここ数年で目立っています。「飲食店営業許可と深夜酒類届出だけで運営していたが、実質は接待行為が日常化していた」という構図で、書類上は届出済みでも、運営実態が接待に当たれば**風営法の無許可営業**として処罰対象になります。罰則は**懲役2年以下または罰金200万円以下**(風営法第49条)。経営者だけでなく従業員も処罰される場合があります。
それから、深夜酒類届出店では**18歳未満の従業員を客に接する業務に就かせること、20歳未満への酒類提供**は別建てで禁止されています。秋葉原のメイドカフェなどで18歳未満の高校生を雇って摘発されたケースが過去にあり、児童福祉法・労働基準法と併せて重罰になっています。
「女性スタッフを採用したい」「カウンター越しに常連さんと長く話すスタイル」――これらは、単独では問題になりません。問題なのは、**運営の実態が接待に流れていく**こと。私が依頼者の方によくお伝えするのは、**最初から接待を伴うコンセプトでやりたいなら風俗営業(1号営業)の許可を取る、接待をしないバーでいくならスタッフ配置と運営ルールを徹底する**、という二択を最初に決めることです。中途半端なグレーゾーン運営は、摘発リスクが高すぎる、というのが現場感覚です。
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飲食店営業許可と消防関連――保健所と消防署も忘れずに

警察への届出ばかり目立ちますが、保健所と消防署の手続きも避けて通れません。
**飲食店営業許可**は保健所への申請で、店舗検査が入ります。事前相談(1〜2週間)→ 申請書類提出 → 店舗検査(内装完成後)→ 許可交付、という流れで、トータル**2〜3週間**が標準的です。手数料は自治体差がありますが、東京都で約18,000円。検査では、シンクの数、給湯設備、冷蔵庫の温度管理、客席と調理場の区分、トイレの設備、手洗い場の位置などが確認されます。内装の段階でこれらを満たしていないと、是正指示が入って再検査になり、開業日が後ろにずれます。
**食品衛生責任者**の資格は、開業時点で店舗に1人配置されている必要があります。経営者本人が取るのが定番ですが、店長やバーテンダーが資格保有者でもよいです。1日講習・約1万円で取得できるので、開業準備の早い段階で受けておくのが安心です。
**消防関連**は2つあります。
防火管理者選任届出は、店舗の収容人数(座席数+立ち見スペースから算定)が30人以上の場合に必要で、甲種または乙種の防火管理者の資格を持った人を選任して消防署に届け出ます。
防火対象物使用開始届出書は、規模に関わらず提出が必要で、内装工事完了後、消防署に提出します。消防署が立ち入り検査をして、消火器の設置、避難経路、誘導灯、自動火災報知設備などを確認します。
**消防署とのやり取りで詰まりやすいのが内装工事**です。客席のレイアウト、避難経路、可燃物の量、これらが消防法の基準に合っていないと是正指示が入ります。内装業者が消防の経験豊富であれば問題ないですが、初めてバーの内装を請ける業者だと、消防検査で詰まることがあるので、業者選びの段階で「飲食店の内装経験があるか」を確認しておくのが無難です。
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自分でやるか、風営法専門の行政書士に頼むか

ここまで読んでいただいた方は、書類と段取りの多さに圧倒されているかもしれません。「自分でできるのか、それとも誰かに頼んだほうがいいのか」という判断軸を、フラットに書きます。
風営法専門の行政書士に依頼する場合、**飲食店営業許可と深夜酒類提供飲食店届出のセットで、報酬は約15万円(税込)**が相場です。事務所によって、警察署対応のみなら10万円台前半、保健所対応も含めると15万円前後、消防対応や許認可全般を含めると20万円超、という幅があります。
ここで重要なのが、**風営法は専門特化の領域**だということ。一般の行政書士事務所でも書類作成は対応してくれますが、警察署の生活安全課とのやり取り、図面作成、ローカルルールへの対応、接待の境界判定は、風営法を年間100件単位で扱っている事務所のほうが圧倒的に経験値があります。一般事務所に頼んで「実は風営法は初めてで」と言われて補正の往復で時間を失うパターンを、知人の経営者から何度か聞きました。依頼するなら**「風営法専門」**を看板にしている事務所を選ぶのが、結果として早く安く済むコツだと感じています。
自分でやれる方の特徴を、現場感で書くと、
時間に余裕があって、図面作成や書類作成が苦にならない方。物件のレイアウトがシンプル(カウンター席のみ、個室なし)でルールに迷わない方。オープン日まで3か月以上の余裕があって、警察署との往復に対応できる方。これらに当てはまる方は、自力でやれば15万円が浮きます。
行政書士に頼んだほうがいい方の特徴は、
オープン予定日まで2か月以内で時間に余裕がない方。物件レイアウトが複雑(個室あり、ボックス席ありなど)で図面作成が難しい方。警察署とのやり取りに不安がある方。内装業者と並行で動く必要があり、本業の準備に時間を割きたい方。これらの場合、報酬15万円とオープン日の遅延リスクを天秤にかけると、依頼するほうが合理的に見える場面が多くなります。
私自身、自分の会社を立ち上げた時の経験で言うと、開業の慌ただしさの中で書類を完璧に作るのは本当に大変でした。経営者が法務に時間を取られると、本業の準備が後手に回って、結果的にオープン後の集客に影響が出ます。**「依頼料を払って本業に集中する」**という判断は、目先のコストではなく、開業後3か月の売上で見ると正しいケースが多いんじゃないかと思っています。
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おわりに
バー開業の手続きは、書類の話に見えて、実は**物件選びの段階で勝負がついている**部分が大きい。用途地域、客室面積、見通しを妨げる設備、使用承諾書――これらを物件契約の前に確認できているかどうかが、オープン日が予定通りになるかの分かれ目です。
冒頭の元会社員の方は、最終的にオープンが1か月半遅れましたが、後日「あの段階で行政書士に相談していてよかった」と話してくれました。物件契約後に「ここでは営業できません」と判明していたら、被害はもっと大きかったはずです。風営法は摘発リスクが大きい領域で、雑な対応や中途半端なグレーゾーン運営は、本当に危険なんです。
1日でも早くオープンしたいなら、書類作成を急ぐより、物件選びの段階での確認を丁寧にやることのほうが、結果的に近道になる――これが、現場で何度も依頼者の方にお伝えしている話です。
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バー開業、物件を契約する前にお話しを聞かせてください。
物件の用途地域、客室のレイアウト、想定する営業スタイル(接待の有無)、オープン予定日。この辺りを一緒に確認すれば、その物件で深夜酒類提供飲食店として営業できるか、何を整えればオープンに間に合うかが見えてきます。物件契約後のご相談でも対応可能ですが、契約前の段階こそ、お役に立てる場面が多いです。飲食店営業許可と深夜酒類提供飲食店届出のセット対応、消防関連の手続きまでサポートします。
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