※先にお願い:本記事は2026年5月時点での士業の業務範囲整理をベースに書きました。介護事業の指定申請の具体的な手続きは、所管都道府県・指定都市・中核市の運用で異なります。実際に進める前には、必ず所轄庁の窓口と、相談先の士業(社労士または行政書士)に最新情報を確認してください。なお、本記事の趣旨は、業務範囲の棲み分けを正確にお伝えすることにあり、介護保険法に基づく指定申請を当事務所が直接受任することを意味するものではありません。
火曜の夕方、福祉系の会社で長年働いてきた48歳の方からご相談がありました。「来春で会社を辞めて、訪問介護事業を立ち上げたいんです。法人はもう作ったので、次は指定申請。知人に『行政書士に頼めばいい』と言われて検索したら、行政書士事務所がたくさん出てきて、本当に頼んでいいのか分からなくなって…」というお話でした。
正直なところ、このご相談に対する私の最初のひとことは、「介護保険法に基づく指定申請は、社労士さんに頼んでいただく方が制度上は適切です」というものでした。電話の向こうで「えっ、行政書士じゃないんですか?」という反応。インターネット検索で行政書士事務所がたくさん出てくる以上、混乱されるのは無理もないと思います。
最終的には、訪問介護の指定申請は私が提携している社労士事務所をご紹介して、法人設立後の各種書類整備(定款変更や役員変更登記の事前確認)と、将来の障害福祉サービス併設を見据えた事業構造の整理を当事務所で受け持つ形に落ち着きました。指定申請の本体は社労士の領域だが、その前後に行政書士が関与できる場面はある、というのが現場での落としどころです。
行政書士業務として、福祉系法人の設立支援や、障害者総合支援法に基づく障害福祉事業の指定申請に継続的に関わってきた中で、介護事業の指定申請は士業の業務範囲が法律で明確に分かれている領域だと感じます。にもかかわらず、Web上では「行政書士が介護指定申請を代行します」と謳う事務所が多数並んでいる。検索ユーザーが混乱するのは、私たち士業側の発信に問題がある面もあると思っています。
この記事では、介護事業の指定申請における社労士と行政書士の業務範囲の棲み分けを正直に整理します。検索ユーザーの方が、誰にどの業務を頼むのが正しいのか、二度手間にならない依頼先を選ぶための判断材料を提供することが目的です。教科書的な指定申請の手続き解説は他のサイトに任せて、業務範囲の整理に焦点を絞ります。
結論から先に|介護保険法の指定申請は、原則として社労士の業務領域です
最初に結論を書きます。
介護保険法に基づく指定申請(訪問介護、通所介護、居宅介護支援、訪問看護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与など)は、原則として**社会保険労務士の業務領域**です。
この根拠は、社会保険労務士法第2条第1項にあります。同条が定める社労士の業務には、「労働及び社会保険に関する法令」に基づく申請書等の作成と提出代行が含まれていて、介護保険法はこの「社会保険に関する法令」に該当する、と解されています。介護保険法第71条が定める指定居宅サービス事業者の指定申請も、この延長で社労士の業務領域に置かれている、というのが行政書士会自身の公式見解です。
日本行政書士会連合会のFAQページには、この点について明確に書かれています。「介護事業に係る許認可(指定)は介護保険法及び健康保険法に定められており、指定申請書類の作成・提出は社会保険労務士業務であり、社会保険労務士の独占業務(他の者が行うことができない)とされている」。行政書士の業界団体自身が、介護保険法の指定申請を社労士業務と認めているわけです。
それでも検索結果には「行政書士が介護指定申請を代行します」と書いている事務所が並びます。これは法律解釈の対立が現実にある領域である一方、上記の公式見解との整合性に問題がある宣伝とも言えます。検索ユーザー側からすると、誰の言い分が正しいのか分かりにくい状況になっている。
正直なところを書くと、介護保険法に基づく指定申請を進めたいなら、最初から社労士事務所に相談する方が、トラブルが少なく、時間の無駄もないと考えています。「行政書士に頼めると思って契約したのに、後から手続きが進まずに数ヶ月を無駄にした」というケースが、実際に当事務所への相談で持ち込まれることがあります。
介護保険法と障害者総合支援法、根本的な棲み分け

業務範囲の話をもう少し丁寧にすると、福祉サービスは大きく2つの法律に分かれて運営されています。
ひとつめが、**介護保険法**。65歳以上の高齢者と、40歳以上65歳未満で特定疾病を持つ方が対象。サービスの種類は、訪問介護、通所介護(デイサービス)、居宅介護支援(ケアマネ事業所)、訪問看護、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)など。指定権者は都道府県知事または指定都市・中核市の長です。
ふたつめが、**障害者総合支援法**(および児童福祉法の障害児通所支援関連)。身体・知的・精神障害者および障害児が対象。サービスの種類は、放課後等デイサービス、児童発達支援、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、生活介護、共同生活援助(グループホーム)など。指定権者は都道府県知事または指定都市・中核市の長です。
この2つの法律は、対象者も、所管も、根拠条文も別系統です。「福祉サービスは全部介護」と一括りにされがちなのですが、制度設計は明確に分かれている。
そして、士業の業務範囲もきれいに分かれます。
| 法律根拠 | 主な対象 | 指定申請の業務範囲 |
|—|—|—|
| 介護保険法 | 高齢者・特定疾病者 | **社会保険労務士の業務領域** |
| 障害者総合支援法・児童福祉法 | 障害者・障害児 | **行政書士の業務領域** |
行政書士法第1条の2第1項が定める「権利義務又は事実証明に関する書類の作成」の業務範囲に、障害者総合支援法に基づく指定申請が含まれる、というのが整理です。介護保険法は社労士の専管領域だが、障害者総合支援法は行政書士の専管領域、というふうに、棲み分けがほぼ対称になっている。
「介護も障害福祉も同じだろう」と思いがちなのですが、業務として誰に頼めるかは法律で別の答えになります。事業を始める前に、自分の事業がどちらの法律に該当するのかを最初に確認するのが、依頼先選びの出発点です。
行政書士が介護事業に関われる範囲|法人設立・周辺業務・補助金

介護保険法の指定申請が社労士の業務領域だとして、では行政書士は介護事業にまったく関われないのかというと、そうではありません。指定申請の前後に、行政書士が関与できる場面が複数あります。
法人設立
介護事業を始めるには、原則として法人格が必要です。株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人、社会福祉法人など、事業内容と将来構想に応じて法人格を選びます。法人設立は行政書士の業務範囲なので、ここから関わることになります。
私の事務所での流れは、最初に「介護事業の構造をどう作るか」のヒアリングをして、法人格を提案し、定款を作成し、設立登記の前段階の書類を整える。実際の登記申請は司法書士に引き継ぎます。法人設立が終わった段階で、介護保険法の指定申請に向けては社労士事務所をご紹介する、というのが現実的な分担です。
障害福祉サービスの指定申請
これが行政書士の本領です。前章で書いた障害者総合支援法・児童福祉法に基づく指定申請は、行政書士の独占業務範囲。詳しくは次章で書きます。
介護タクシー・介護保険外サービス
「介護」という名前がついていても、介護保険法の指定申請ではない事業もあります。代表が介護タクシーで、これは道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業の許可(福祉輸送限定)。これは行政書士の業務範囲です。介護保険外サービス(保険対象外の自費サービス)も、特段の指定が要らない自由市場のサービスとして展開できます。
補助金・助成金の申請補助
介護事業者向けの各種補助金(IT導入補助金、地域医療介護総合確保基金事業、自治体独自の創業支援助成金など)は、行政書士が申請補助できる場面があります。ただし、介護職員処遇改善加算など、介護保険法の運用に直結する加算申請は、社労士の領域に踏み込む可能性があるので、案件ごとに確認する必要があります。
障害福祉事業の指定申請は、行政書士の業務領域です

ここからは、行政書士が誠実にお引き受けできる障害福祉事業の指定申請について書きます。
対象になるサービスは、児童福祉法に基づく**放課後等デイサービス**、**児童発達支援**、保育所等訪問支援、福祉型児童発達支援センター、医療型児童発達支援センターなど。障害者総合支援法に基づく**就労継続支援A型・B型**、就労移行支援、**生活介護**、**共同生活援助(グループホーム)**、自立訓練、就労定着支援など。これらすべて行政書士が独占で対応できる業務領域です。
申請の流れは、おおむね2〜3ヶ月の準備期間を要します。法人設立、サービス内容に応じた人員基準(児童指導員・サービス管理責任者・看護職員等)の確保、設備基準を満たす物件の確保、運営規程の作成、各種書類(指定申請書・運営規程・人員配置表・収支予算書・利用者負担金表・苦情処理体制ほか)の準備。これを所管庁(都道府県・指定都市・中核市)に提出して、書類審査と現地調査を経て、指定が下ります。
指定までの期間は、申請してからおおむね1〜2ヶ月。事前相談の段階を含めると、構想から指定取得まで4〜6ヶ月見ておくのが現実的です。
費用面では、行政書士に依頼した場合の代行報酬は、サービス類型と地域で幅がありますが、おおむね30〜50万円が相場感です。法人設立から含めれば60〜80万円程度。これに加えて、物件取得・設備整備・人材採用などの初期投資が事業者側で発生します。
放課後等デイサービスや就労継続支援B型は、ここ数年で開設が増えていて、指定申請のご相談も継続的にあります。「介護事業を立ち上げたい」とお問い合わせいただくケースの中には、実は障害福祉事業の方が事業構想に合致している、というパターンも珍しくない。事業構想の段階で、介護保険法か障害者総合支援法かをきちんと整理することが、士業選びの最初のステップになります。
介護+障害福祉の複合事業者の場合|士業連携の現実

最近増えているのが、訪問介護と障害福祉サービスを併設して運営する事業者です。たとえば、訪問介護(介護保険法)と居宅介護(障害者総合支援法、身体障害者向けの訪問サービス)を一体的に提供する形。同じヘルパーが両方のサービスを提供できる仕組みで、事業効率がいい。
このような複合事業の場合、必要な士業はおおむね以下の通りに分かれます。
法人設立:行政書士(と司法書士)。
介護保険法の指定申請(訪問介護等):社労士。
障害者総合支援法の指定申請(居宅介護等):行政書士。
労務管理・就業規則・労働保険:社労士。
税務申告:税理士。
顧問契約全般:複数士業の連携体制が必要。
「これだけ士業が分かれていると、相談先が複数になって面倒」と感じるのが普通だと思います。実際そうなんです。だからこそ、最初の入口で全体の交通整理をできる士業事務所を選ぶ価値が出てきます。
私の事務所では、法人設立から障害福祉指定申請までを当事務所で受けつつ、介護保険法の指定申請は提携している社労士事務所、税務申告は提携税理士事務所、というように、ワンストップに近い形で複数士業を巻き取れる体制を整えています。事業者の方からすると、窓口は一つで済むので、各士業との個別調整の手間が減る。
「介護+障害福祉の複合事業を始めたい」というご相談の場合、一つの事務所で全部巻き取れることは現実的にないので、最初に複数士業の連携体制を持っている事務所を選んでおくのが、後の運営の楽さに直結する、というのが実務感です。
「行政書士に頼める」と言われたのに、結局できなかったケース

実際に当事務所に持ち込まれた相談から、業務範囲の誤解で時間を無駄にしたケースを書きます。
ケース1。訪問介護事業を始めようとした方が、ある行政書士事務所に「指定申請を代行できます」と言われて契約。書類準備を始めて1ヶ月ほど経ったところで、「やはり社労士業務に該当するため、ここから先は社労士事務所をご紹介します」と切り替えになった。結果として、最初の1ヶ月が実質的に無駄になり、社労士事務所と契約しなおして、また書類のやり取りからやり直し。事業開始予定が2ヶ月遅れた。
ケース2。介護タクシー(道路運送法の許可、行政書士業務)を取得した事業者が、その後通所介護も追加したくなり、同じ行政書士事務所に依頼したところ、通所介護は社労士業務だと判明。介護タクシーで使った許可ノウハウは活かせず、別の士業との契約が必要になった。
ケース3。「介護事業を立ち上げたい」というご相談で来た方の事業構想を聞いたら、内容が放課後等デイサービスだった。介護保険法ではなく障害者総合支援法の話だったので、行政書士の業務範囲。これは私の事務所で受任できた事例ですが、ご本人は最初「介護」のイメージで動いていたので、士業選びを誤りかけた典型例でした。
これらの失敗を避けるには、依頼前の確認が一番大事です。「うちの事業は介護保険法ですか、障害者総合支援法ですか」を最初に確認する。その上で、介護保険法なら社労士、障害者総合支援法なら行政書士、と進める。事務所のWebサイトに「介護事業指定申請対応」と書かれていても、その事務所が社労士法人なのか行政書士事務所なのかを確認する。これだけで、二度手間の大半は防げます。
おわりに|事業構造から逆算して、誰に頼むかを決める
冒頭の48歳の元会社員の方は、最終的に訪問介護の指定申請を提携社労士に依頼し、法人の体制整備と将来の居宅介護(障害者総合支援法)の事業追加に向けた準備を当事務所で受け持つ形で進めることになりました。最初から士業の役割分担を整理して動けたので、無駄な時間が発生せず、事業計画通りのスケジュールで動いています。
介護事業の士業選びを、よく医師の専門科に例えています。内科の症状で外科に行っても、結局は内科に紹介状を書いてもらうことになる。最初から正しい科に行く方が、診断と治療が早い。介護事業の指定申請も同じで、介護保険法は社労士、障害者総合支援法は行政書士、法人設立は行政書士、税務は税理士、と最初から正しい士業に行く方が、結果的に早いし、トラブルが少ない。
そして、繰り返しになりますが、本記事は業務範囲の棲み分けを整理する目的で書きました。介護保険法に基づく指定申請を当事務所が直接受任することを意味するものではありません。最新の運用は所管庁および各士業会で確認していただくとして、本記事は依頼先を選ぶときの補助線として読んでもらえたらと思います。
迷ったら、行政書士に最初の相談だけでもしてもらえたらと思います。「自分の事業は介護保険法か障害者総合支援法か」「法人格は何にすべきか」「最終的にどの士業のどんな依頼が必要か」、ここまでは無料相談ベースで一緒に整理できます。事業構造の入り口を整理する30分で、その後の数ヶ月の動き方が大きく変わる手続きだと感じています。
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