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経営事項審査の点数の上げ方|経審シミュレーションで公共工事の格付を狙う

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

経営事項審査の点数の上げ方

「経審の点数、どうやったら上がりますか?」

公共工事の入札に参加したい建設業者さんから、この質問は本当によく受けます。経審は毎年10件くらいやっていますが、聞かれる内容は毎回ほぼ同じです。点数の仕組みがわかりにくい、何から手を付ければいいのかわからない、そもそも計算式が複雑すぎて途中で諦めた──そんな声が多い。

この記事では、経営事項審査(経審)の点数の上げ方を、実務の現場から具体的に書いていきます。計算式を見ると難しそうですけど、やるべきことは意外とシンプルです。特に中小規模の建設業者さんにとって、「知っているだけで取れる点数」がかなりある。そこを全部拾うだけで、P点が50点以上動くことも珍しくありません。

後半では、P点650の会社が720を超えるまでの経審シミュレーションも載せています。自社の状況に当てはめながら読んでみてください。

経審とは何か──公共工事に入るための「通信簿」

経審から公共工事受注までのフロー|経審受審・P点算出・入札参加資格・受注

経営事項審査、通称「経審」は、建設業者が公共工事を受注するために必ず受けなければならない審査です。国や地方公共団体が発注する工事の入札に参加するには、まず入札参加資格を得る必要がありますが、その前提として経審の結果通知書が求められる。つまり、経審を通らないと入札のスタートラインにすら立てません。

経審の結果は「P点(総合評定値)」という数字で出てきます。このP点が高ければ高いほど、参加できる入札の規模が大きくなる。自治体はP点を基準に業者をランク分け(格付け)していて、たとえば兵庫県であればAランク、Bランク、Cランクといった区分で発注する工事の金額帯が変わります。

【経審を受ける目的(入札参加資格申請に必須)】

経審を受ける最大の目的は、入札参加資格の申請です。流れを整理するとこうなります。

1. 決算を迎える
2. 決算変更届(事業年度終了届)を許可行政庁に提出する
3. 経営状況分析の申請を登録分析機関に出す
4. 経営規模等評価の申請を許可行政庁に出す
5. 結果通知書が届く
6. 入札参加資格の申請をする

この一連の流れを、毎年繰り返すことになります。経審の有効期間は審査基準日(=決算日)から1年7ヶ月なので、切れ目なく入札に参加し続けるには、毎年の受審が必要です。

ここが一番伝えたいところなんですが、この流れの中で「どこを工夫するか」によって、同じ会社でもP点はかなり変わります。決算の組み方、加入する制度、社員の資格──触れる場所はいくつもある。

P点(総合評定値)の計算式を整理する

P点の計算式はこうです。

P = 0.25×X1 + 0.15×X2 + 0.20×Y + 0.25×Z + 0.15×W

X1は完成工事高、X2は自己資本額と平均利益額、Yは経営状況分析、Zは技術力、Wは社会性等。それぞれにウェイト(係数)がかかっていて、P点はこの5つの要素の加重平均で決まります。

この式を見て「全部を上げないといけないのか」と思うかもしれませんが、そんなことはないです。ウェイトが大きい項目、短期間で改善しやすい項目に絞って手を打つのが現実的な戦略になります。

P点の目安──700点で中小規模、800点で中堅クラス

P点の感覚値を押さえておきましょう。

  • 700点前後:平均的な水準。中小規模の公共工事入札に参加できるライン
  • 800点以上:中堅クラス。ある程度大きな案件にも手が届く
  • 900点以上:大手クラス。大規模工事の入札に参加可能

私の実感としては、年商1〜3億円くらいの建設業者さんだと、何も対策しなければP点は600〜700点あたりに落ち着くことが多いです。ここから700点台後半、あるいは800点に乗せるためには、意識的に「点数を上げにいく」必要がある。逆に言えば、対策次第で十分に届く範囲でもあります。

P点を構成する5つの要素──どこを触れば点数が動くか

経審P点を構成する5つの要素|X1・X2・Y・Z・W点の重み比率

P点を上げるには、5つの構成要素のうち「動かしやすいもの」から着手するのが鉄則です。全部を一度にやろうとすると混乱するので、優先順位を付けていきます。

【X1(完成工事高)──ウェイト0.25だが急には上がらない】

X1は工事種類別の完成工事高に基づく評点で、ウェイトは0.25と大きい。ただし、完成工事高は一朝一夕には増えません。受注を増やす、単価の高い工事を取る、といった営業面の努力が必要で、「経審対策」という意味では即効性が低い項目です。

ただし、2年平均と3年平均のどちらか有利な方を選べるという制度があります。ここは見落としている会社が意外と多い。たとえば、前期に大きな工事が完成した会社は2年平均の方が高くなりやすいし、逆にたまたま前期の完工高が落ちた場合は3年平均にした方が有利になる。

以前、年商2億円前後の土木工事業者さんで、直近の決算だけ工事の完成が翌期にずれ込んで完工高が1.2億円に下がってしまったケースがありました。2年平均で計算するとX1がガクッと落ちるのですが、3年平均を選択したことで前々期の2.3億円が効いて、X1を維持できた。これだけでP点に10点以上の差が出ました。

【X2(自己資本額・平均利益額)──決算書の数字がそのまま効く】

X2の計算は、自己資本額の評点と平均利益額の評点を足して2で割った値です。

X2 =(自己資本額点数 + 平均利益額点数)÷ 2

自己資本額は貸借対照表の純資産の部の合計、平均利益額は営業利益と減価償却実施額の合計の2年平均です。ここは決算書の数字がダイレクトに反映されるため、「決算をどう組むか」が重要になってきます。

正直に言うと、X2を短期間で大きく動かすのは難しい。ただ、利益をきちんと内部留保して自己資本を厚くしていく、不要な借入を整理する、といった地道な財務改善が中長期的に効いてきます。

Y(経営状況分析)──8指標の中で改善しやすいものとしにくいもの

Y点は登録経営状況分析機関が8つの経営指標に基づいて算出するもので、範囲は0〜1,595点です。8つの指標はこちら。

  • 純支払利息比率
  • 負債回転期間
  • 売上高経常利益率
  • 総資本売上総利益率
  • 自己資本対固定資産比率
  • 自己資本比率
  • 営業キャッシュフロー
  • 利益剰余金

この中で比較的改善しやすいのは「純支払利息比率」と「自己資本比率」です。借入金の金利負担を減らす、繰上返済する、あるいは役員借入金を資本に振り替えるといった手法で数字が動く。逆に「営業キャッシュフロー」や「利益剰余金」は一朝一夕にはいかない。長年の経営の積み重ねが出る指標です。

これは私の実感ですが、Y点を大幅に改善するのは時間がかかります。それよりも、Y点を「下げている指標」を特定して、そこだけをピンポイントで手当てする方が効率的です。1つの指標が極端に悪い場合、そこを平均程度に戻すだけでY点が20〜30点上がることもある。

Z(技術職員数・元請完成工事高)──資格取得が最もコスパの良い加点

Zの計算式はこうです。

Z =(Z1×4 + Z2)÷ 5

Z1は技術職員の数と資格に基づく数値、Z2は元請完成工事高の評点。Z1のウェイトが圧倒的に高いので、技術職員の資格を増やすことが最も効果的なZ点対策になります。

技術職員の資格による点数は以下のとおり。

  • 1級技術者(監理技術者)=5点
  • 1級技術者+監理技術者講習修了=6点
  • 基幹技能者=3点
  • 2級技術者(主任技術者)=2点
  • その他=1点

1人の社員が2級から1級に上がると、それだけで3点のプラスです。4人の社員がそれぞれ2級を取れば8点の加算。技術職員数値は経審の中でも「努力が直結する」項目なので、私はいつも「まず資格を取らせましょう」と言ってます。

Z2の元請完成工事高は、下請けが多い会社だと低くなりがちです。ここは営業方針にも関わるので簡単には変えられませんが、少しでも元請比率を上げる意識があると、じわじわとZ点に効いてきます。

【W(社会性等)──小さい会社ほど効く「取るだけで加点」の項目群】

ここが一番伝えたいところなんですが、W点は「知っているかどうか」で大きく差がつく項目です。W点はW1〜W10の合計で構成されていて、制度に加入する、認定を受ける、といった「やるかやらないか」だけで点数が決まるものが多い。

特に中小の建設業者さんは、W点の加点項目を取りこぼしているケースが非常に多いです。「え、加入するだけで点数もらえるんですか?」と驚かれることは珍しくない。次の章で、W点の加点項目を一つずつ見ていきます。

W点を全部拾う──今すぐできる加点項目を一つずつ

W点を全部拾うための加点項目8選|建退共・ISO・BCP等の難易度別ガイド

W点は、P点のウェイトが0.15です。「たった15%か」と思うかもしれませんが、W点は低コスト・短期間で改善できる項目が集中しているので、費用対効果が最も高い。ここを全部拾うだけでP点が30〜50点動くこともあります。

【建退共・退職一時金・法定外労災(加入するだけで+15点×3)】

まずは三大加点項目から。

  • 建設業退職金共済(建退共)に加入 → +15点
  • 退職一時金制度または企業年金制度を導入 → +15点
  • 法定外労働災害補償制度に加入 → +15点

この3つだけで+45点です。W点への影響だけでなく、P点に換算すると0.15をかけて約6.75点。これを「たかが7点」と見るか「7点も取れる」と見るかで、経審の結果は変わってくる。

建退共は建設業で働く労働者のための退職金制度で、加入手続き自体はそこまで難しくありません。証紙の購入・貼付という運用面の手間はありますが、経審対策としてのリターンは大きい。

忘れられない話があります。年商1億円ほどの建設会社の社長さんで、何年も経審を受けていたのに建退共に加入していなかった。「そんな制度があるとは知らなかった」とおっしゃっていて。。加入手続きを済ませて次の経審でW点が一気に上がったときは、社長さんも「もっと早く教えてほしかった」と。行政書士がきちんと案内すべき項目だと改めて感じました。

法定外労災は、政府の労災保険に上乗せする民間の保険です。年間の保険料は会社の規模にもよりますが、数万円から十数万円程度のことが多い。それで15点もらえるなら、入らない理由がないと思います。

CCUS(建設キャリアアップシステム)──加点対象

CCUS(建設キャリアアップシステム)は2023年の改正で経審の加点対象に追加されました。

  • 民間工事を含む全現場で導入 → +15点
  • 公共工事のみ導入 → +10点

CCUSは技能者の資格・就業履歴をカードで管理するシステムで、国が普及を推進しています。導入にはそれなりの事務負担が伴いますが、15点の加点は大きい。今後さらに加点幅が拡大する可能性もあるので、早めに対応しておく価値はあると思います。

ただ正直に言うと、小規模な会社にとってCCUSの導入はちょっとハードルが高い。現場ごとにカードリーダーを設置して、技能者全員にカードを持たせて、就業履歴を蓄積して…という運用を回すのは、事務員さんが1人いるかいないかの会社には負担です。加点を取りに行くかどうかは、会社の体制を見て判断した方がいいでしょう。

建設業経理士の配置

建設業経理士(1級または2級)が社内にいると、W点が加算されます。公認会計士や税理士も同等に扱われる。

建設業経理士2級は、簿記の知識がある方なら独学でも取得可能な資格です。経理担当の社員に取ってもらうのが王道ですが、役員が自分で取るケースもあります。建設業経理士は「在籍しているだけ」で加点されるので、一度取れば毎年の経審で効き続けるのが強みです。

えるぼし・くるみん・ユースエール認定

働き方改革関連の認定も加点対象になっています。

  • えるぼし認定:女性活躍推進に関する認定。段階に応じて5〜15点
  • くるみん認定:子育てサポート企業の認定。5〜15点
  • ユースエール認定:若者の雇用管理が優良な企業の認定。+15点

これらは取得のハードルがやや高いですが、取れれば毎年の経審で安定した加点が得られます。特にユースエール認定は中小企業が対象なので、若手社員を積極的に採用・育成している会社なら検討する価値がある。

私の経験では、えるぼしやくるみんを経審対策のためだけに取ろうとする会社は少ないです。もともと女性の働きやすい環境を作っていたり、育児支援に力を入れていたりする会社が「ついでに経審でも点数がもらえるなら申請しよう」というパターンが多い。

【防災活動への貢献、CPD・技能レベル向上】

防災協定の締結等による防災活動への貢献は、+20点の加点があります。これはW点の中でも配点が大きい。自治体との防災協定を結んでいる建設業者さんは意外といるのですが、経審の申請時にそれを反映させていないケースがある。もったいないです。

CPD(継続教育)単位の取得状況に応じた加点もあります。技術者がCPD単位を取得していれば加点対象になるので、講習会への参加を会社として促進するのが有効です。

知識及び技術又は技能の向上に関する取組も最大10点の加点があります。技術者や技能者のスキルアップに取り組んでいることを示すもので、具体的には社内研修や外部研修への参加実績が評価される。

Z点──技術職員の資格で差がつく

経審Z点:技術職員の資格ランクと点数|一級・二級・基幹技能者の比較

W点の次に手を付けやすいのがZ点です。Z点はウェイト0.25でP点への影響が最も大きい要素のひとつであり、技術職員の資格取得という「明確なアクション」で上げることができる。

【1級施工管理技士=5点、2級=2点の差】

技術職員の資格による加点を改めて整理します。

  • 1級施工管理技士(監理技術者)=5点
  • 1級施工管理技士+監理技術者講習修了=6点
  • 基幹技能者=3点
  • 2級施工管理技士(主任技術者)=2点
  • その他技術者=1点

1級と2級の差は3点です。たった3点と思うかもしれませんが、この3点はZ1の計算に直接入ってきて、さらにZ1はZの計算で4倍のウェイトがかかる。つまり、1人が2級から1級に上がると、Z点への影響は想像以上に大きい。

具体的な例を挙げます。技術者4名の会社で、全員が2級施工管理技士だとZ1の技術職員数値は4人×2点=8。ここで2人が1級に上がると、2人×5点+2人×2点=14。数値が8から14に上がります。この差はP点に換算すると相当なインパクトです。

監理技術者と主任技術者の評点の違い

建設業法上、元請として4,500万円以上(建築一式は7,000万円以上)の下請契約を締結する工事には監理技術者の配置が必要で、それ以外は主任技術者の配置が必要です。

経審では、監理技術者になれる1級資格者は5点、主任技術者になれる2級資格者は2点と明確に差を付けています。この差は「より大きな工事を管理できる能力」への評価であり、会社の技術力を測る上で核心的な指標です。

1級の監理技術者講習を修了すれば6点になるので、1級を持っている社員には必ず講習を受けてもらうべきです。講習は1日で終わりますし、費用も1万円程度。それで1点加算されるなら、受けない手はありません。

「資格を取らせる」が中長期で最も効くP点対策

私がいつも経審の相談で最初に確認するのは、社員の資格一覧です。「この人は2級持ってますか」「1級は受けてますか」「実務経験の要件は満たしてますか」と聞いていく。

中小の建設会社では、実力はあるのに資格を持っていない職人さんが多い。現場では一人前に仕事をしているのに、試験を受けていないから経審上は評価されない。これは本当にもったいないです。

ある会社では、社長が「うちの社員は勉強が苦手で…」とおっしゃっていましたが、2級施工管理技士の学科試験は実務経験があれば合格率はそこまで低くない。会社として受験を支援する体制(受験料の負担、講習の費用補助、勉強時間の確保)を作ることで、2年間で4名中3名が2級に合格したケースもあります。

資格取得は、一度成果が出ればその後ずっと経審に反映され続ける。毎年の決算のように変動しないので、経審対策として最もコスパが良いと断言できます。

X1・X2・Yは「決算の組み方」で変わる

経審X1・X2・Yは決算書の組み方で変わる|貸借対照表と損益計算書からの影響

X1、X2、Yは決算書の数字に基づく評点なので、「経審を意識した決算」ができるかどうかで結果が変わります。脱税とか粉飾の話ではなくて、制度上認められた選択肢の中で有利な方を選ぶということです。

【完成工事高の2年平均と3年平均──有利な方を選べる】

X1の完成工事高は、直近2年平均と直近3年平均のどちらか有利な方を選択できます。これは工事種類ごとに選べるので、たとえば土木は2年平均、建築は3年平均、といった使い分けも可能です。

先ほども少し触れましたが、3年平均を選ぶことでX1が大きく改善するケースは実務でよく見ます。特に、たまたま前期の完工高が低かった場合や、大型工事の完成が集中した年がある場合は、平均の取り方一つでX1が数十点変わることがある。

ここは経審に慣れた行政書士なら必ずシミュレーションする部分ですが、自社で申請している会社だと「なんとなく2年平均」で出してしまっていることがあります。毎年、両方のパターンで計算してみることをお勧めします。

兼業売上を分けるか合算するかの判断

建設業と兼業(建設業以外の事業)がある場合、売上の振り分けも検討が必要です。経審では建設業の完成工事高が評価対象になるため、兼業売上が多い会社は建設業の比率がどうなるかで数字の見え方が変わる。

たとえば、建設業の売上が1.5億円、不動産業の売上が5,000万円ある会社の場合、X1は建設業の完工高1.5億円で計算されます。兼業売上はX1には反映されませんが、X2やYの計算では全社の財務数値が使われるので、兼業事業の利益が出ていればX2やYにはプラスに働く。

ここの最適な組み方は会社ごとに異なるので、一概に「こうすべき」とは言えません。税理士と行政書士が連携して、経審に有利な決算の組み方を検討するのが理想的です。

自己資本を厚くする方法(利益留保、増資)

X2の自己資本額は純資産の部の合計です。これを増やすには、基本的に利益を内部留保する(配当や役員報酬で全部出さない)か、増資をするか、のどちらかです。

中小の建設会社でよく見るのは、節税を優先して役員報酬を高めに設定し、法人の利益を極限まで圧縮しているパターン。税金は確かに減りますが、その分だけ自己資本の積み上がりが遅くなって、X2とYの両方に悪影響が出る。

経審を受ける会社にとって、「節税」と「経審の点数」はしばしばトレードオフの関係にあります。ここは社長さんの経営判断ですが、公共工事の受注を増やしたいなら、ある程度は利益を残す方向に舵を切るべきだと私は考えています。

Y点を下げている指標を特定する方法

Y点は8つの指標から算出されますが、経営状況分析の結果通知書には各指標の数値が載っています。これを見て、どの指標が全体の足を引っ張っているかを確認するのが改善の第一歩です。

たとえば、純支払利息比率が極端に高い(つまり借入金の利息負担が大きい)会社は、借入の見直しだけでY点が改善する可能性がある。自己資本比率が低い会社は、先述の利益留保や増資で改善できる。

全部の指標を一度に改善しようとする必要はないです。一番悪い指標を1つ見つけて、そこを平均的な水準まで引き上げる。これだけでY点は思った以上に動きます。

シミュレーションの実際──P点650の会社が720になるまで

経審P点シミュレーション|650点から720点までの改善施策の積み上げ

ここからは架空の事例を使って、経審シミュレーションを具体的に見ていきます。数字はあくまで例ですが、実際の相談で多いパターンをベースにしてます。

【架空事例:年商1.5億円、技術者4名、P点650からのスタート】

A建設株式会社(仮名)の概要は以下のとおりです。

  • 業種:土木工事業
  • 年間完成工事高:約1.5億円
  • 従業員数:10名(うち技術者4名)
  • 技術者の資格:2級土木施工管理技士が2名、資格なしが2名
  • 自己資本額:約3,000万円
  • 経審の結果:P点650

この会社は公共工事の入札に参加していますが、650点だと参加できる案件が限られる。社長さんとしては「できれば700点以上、理想は720点超」を目指したい。

現状のP点650の内訳を分析すると、こんな感じです。

  • X1:完成工事高は年商1.5億円相応で、特に低くはない
  • X2:自己資本3,000万円は年商の割にやや少ない
  • Y:純支払利息比率が高め、自己資本比率も低め
  • Z:技術者4名中2名しか資格を持っておらず、しかも2級のみ
  • W:建退共に未加入、法定外労災も未加入、その他の加点項目もほとんど取れていない

この会社の問題点は、Z点とW点に伸びしろが大量にあるのに、全く手を付けていないことです。

W点の加点項目を全部拾う

まずはW点から攻めます。最もコストが低く、手続きだけで済むものが多いからです。

対策1:建退共に加入する → +15点
加入手続きを行い、証紙の購入を開始する。年間のコストは労働者数×就労日数×証紙単価(310円/日)ですが、加点のリターンを考えれば十分にペイする。

対策2:退職一時金制度を導入する → +15点
中小企業退職金共済(中退共)に加入するのが最も手軽です。掛金は月額5,000円からで、国の助成制度もある。

対策3:法定外労災保険に加入する → +15点
民間の保険会社の上乗せ労災に加入する。年間保険料は数万円〜十数万円程度。

対策4:CCUSの導入を検討する → +10〜15点
全現場に導入できれば15点ですが、まずは公共工事の現場だけでも始めれば10点。A社の場合、事務体制を考えて公共工事のみの導入とし+10点を取りに行く方針としました。

対策5:防災協定の確認 → 最大+20点
地元の建設業協会を通じて自治体と防災協定を締結しているか確認。A社は所属する協会が市と協定を結んでいたため、その証明を取得して+20点を確保。

これだけでW点は+75点の上積みです。P点への寄与は0.15×75=約11.25点。ここが大きい。

社員に2級施工管理技士を取らせる

次にZ点対策です。

現状:2級が2名、資格なしが2名 → Z1の技術職員数値=2名×2点+2名×1点=6

対策:資格なしの2名に2級土木施工管理技士を受験させる。会社として受験対策講座の費用を負担し、勉強時間も確保させた。

1年後の想定:2級が4名 → Z1の技術職員数値=4名×2点=8

数値が6から8に上がるだけですが、Z1の評点テーブルに当てはめるとZ点が上がります。さらに将来的に1級を目指す社員が出てくれば、ここからまだ伸びる。

加えて、既存の2級保有者2名には1級の受験を勧めた。1級は実務経験の要件があるので全員がすぐ受けられるわけではありませんが、1人でも合格すれば5点になり、監理技術者講習を修了すれば6点。Z1への貢献は大きいです。

決算の見直しでY点を改善する

A社のY点を下げていたのは主に2つの指標でした。

  • 純支払利息比率:借入金の利息負担が大きい
  • 自己資本比率:自己資本3,000万円に対して総資本が大きすぎる

対策としては、以下を実施。

対策1:金利の高い借入を繰上返済する
A社には金利2.5%の古い借入が残っていた。これを一部繰上返済することで、年間の支払利息を削減。純支払利息比率が改善し、Y点の底上げにつながった。

対策2:役員報酬を見直して利益を残す
社長の役員報酬を年間で200万円抑え、その分を法人の利益として残す方針に変更。これにより利益剰余金が積み上がり、自己資本比率が改善する。初年度は効果が限定的でも、2年、3年と続けることで確実にX2とYの両方が上がる。

対策3:完成工事高の2年平均と3年平均をシミュレーションする
A社の場合、前々期に大型工事の完成があったため、3年平均を選択した方がX1が有利になった。これだけでX1が数点プラスに。

【1年後にP点720超を実現するロードマップ】

A社が実施した対策と、P点への影響をまとめます。

第1段階(すぐにできる):
・建退共加入:W点+15
・中退共加入:W点+15
・法定外労災加入:W点+15
・防災協定の証明取得:W点+20
→ W点合計+65、P点への寄与=約+9.75点

第2段階(半年以内):
・CCUS導入(公共工事のみ):W点+10
・完工高の2年/3年平均の有利選択:X1改善
・借入金の繰上返済:Y点改善
→ P点への寄与=約+5〜8点

第3段階(1年後の経審まで):
・社員2名が2級施工管理技士に合格:Z点改善
・役員報酬見直しによる利益留保:X2・Y点改善
→ P点への寄与=約+8〜12点

合計で+25〜30点の改善が見込まれ、P点650→680〜720が現実的なラインです。

実際には、この通りに全部がうまくいくとは限りません。資格試験に落ちることもあれば、工事の受注状況が変わることもある。ただ、W点の加点項目を全部拾い、社員の資格取得を進め、決算を少し見直す──この3つの柱を同時に進めるだけで、P点は確実に上がります。

私がA社(に近い状況の実在の会社)を担当したときは、初年度でP点が約55点上がりました。一番効いたのはW点です。建退共、中退共、法定外労災に加入して、防災協定の証明を取っただけで、W点が大幅に改善した。社長さんは「こんなに簡単に上がるなら、もっと早くやればよかった」と笑っていました。

経審で行政書士を使う意味

経審における行政書士の支援範囲|情報収集から結果分析までの5フェーズ

「経審は自分で申請できますか?」と聞かれることもあります。制度上は自社で申請することは可能です。ただ、経審を自分でやっている会社で、点数の最適化まできちんとできているケースは正直あまり見たことがないです。

行政書士に依頼するメリットは、大きく3つあります。

1つ目は、加点項目の取りこぼしを防げること。W点の加点項目は種類が多く、制度改正もある。2023年にはCCUSが加点対象に追加されるなど、ルールは毎年のように変わっています。経審に慣れた行政書士なら、「この会社なら、この加点が取れるはず」と網羅的にチェックできる。

2つ目は、経審シミュレーションによる点数の最適化。2年平均と3年平均の選択、決算の組み方、資格者の配置──こうした選択肢を全部シミュレーションして、最も有利な組み合わせを提案できます。計算式を知っているだけではなく、「どう組み合わせるとP点が最大化するか」という経験値が必要な部分です。

3つ目は、申請手続きの負担軽減。経審は提出書類が多く、決算変更届から経営状況分析、経営規模等評価申請まで、一連の手続きをこなすだけでもかなりの工数がかかります。本業で忙しい建設会社の社長さんや事務の方が、年に1回とはいえこの作業をやるのは大変です。

経審の費用は行政書士によりますが、相場としては10〜20万円程度(経営状況分析の手数料等は別)。この費用で点数が50点上がって、参加できる入札の幅が広がるなら、投資としては悪くないと思っています。

もちろん、「うちは行政書士に頼まなくても大丈夫」という会社もあります。経理がしっかりしていて、制度にも詳しい担当者がいる場合は、自社申請でも問題ない。ただ、「点数を上げたい」「格付けを上げたい」という明確な目標があるなら、経審に強い行政書士に相談してみる価値はあるはずです。

まとめ

経審アップの3ステップ|現状分析・改善計画・実行継続のサイクル

経営事項審査の点数の上げ方について、P点の構成要素ごとに解説してきました。最後にポイントを整理します。

  • P点は5つの要素(X1・X2・Y・Z・W)の加重平均で決まる
  • 短期間で最も効果が出やすいのはW点(社会性等)。加入・認定だけで取れる加点項目を全部拾う
  • Z点(技術力)は社員の資格取得で改善する。1級と2級の差は大きいので、中長期で1級を目指す
  • X1の完成工事高は2年平均と3年平均の有利な方を選択する
  • X2・Yは決算の組み方で変わる。節税一辺倒ではなく、経審を意識した財務戦略が必要
  • 経審シミュレーションで各項目の改善幅を事前に把握し、優先順位を付けて対策を実行する

公共工事の入札に参加したい、格付けを上げたい、という建設業者さんにとって、経審は避けて通れないものです。ただ、「仕組みを知って、やるべきことをやる」だけで点数は確実に上がる。難しい話ではありません。

当事務所では、経審の申請代行から点数の改善提案、経審シミュレーションまで対応しています。「うちの会社のP点はどのくらい上がりそうか」「何から手を付ければいいか」といったご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。