経営戦略

家族信託の契約書と費用|行政書士に頼めるところと頼めないところを正直に書きます

本記事は、当事務所の代表行政書士が実務に基づき執筆しています。

※先にお願い:家族信託は信託法・税務・登記・親族関係が複合的に絡む領域で、運用や報酬相場には流動的な部分があります。本記事は2026年5月時点で私が把握している範囲で書きましたが、実際に手続きを進める段階では、必ず複数の専門家(行政書士・司法書士・税理士・公証役場)に当たって最新情報を確認してください。特に登録免許税の軽減措置や税務上の取扱いは、時限措置の延長・廃止で変動する部分があります。

日曜の夜、58歳の会社員の方から長文のメールが届きました。「父が80歳で、先月軽度認知症の診断を受けました。実家の戸建てが評価額3,000万円、父名義の預金が1,500万円ほどあって、家族信託というものを使えば認知症が進んでも実家の処分や預金の管理が止まらない、と知人から聞いて検討しているんですが…」。

長文の最後に、こう書かれていました。「ただ、ネットで調べると『家族信託は行政書士で大丈夫?司法書士・弁護士に任せるべき』みたいな記事もあって、結局のところ誰に頼めばいいのか分からなくなりました」。

私が最初に返したのは、「率直に言うと、案件の中身次第です。実家の登記まで含めるなら司法書士の関与が要るし、相続争いが見えてるなら弁護士、税金が大きいなら税理士。行政書士単独で全部できるわけではないんです」というメッセージでした。電話で1時間ほどお話しした結果、契約書の設計とコーディネートを当事務所で進めて、信託登記は提携司法書士、税務は税理士に分担で動かす形で着地。最初に「行政書士で全部」と思い込んでいたら、たぶん途中で詰まっていたケースだったと思います。

行政書士業務として家族信託の契約書作成と相続関連の書類整備に継続的に関わってきた中で、家族信託は「契約書を作って終わり」の手続きではないというのが私の実感です。契約書設計、公正証書化、信託登記、信託口口座の開設、税務調整、そして契約後の運用フェーズ。これらが全部つながっていて、一つの士業で全部巻き取るのは事実上難しい場面が多い。

この記事では、ネット上にあふれる「6つの必須事項」「4つの士業比較表」のような網羅型の整理は他のサイトに任せます。代わりに、契約書の中身でつまずきやすいところと、行政書士・司法書士・弁護士・税理士の業務範囲を正直に書きながら、自分のケースで誰に頼むのが合うかを判断する材料を中心に並べます。途中で迷ったら、自分の状況に近い章だけ拾い読みしてもらえたらと思います。

家族信託(民事信託)とは|認知症対策と次世代承継のための仕組み

家族信託(民事信託)とは|認知症対策と次世代承継のための仕組み

最初に短く整理だけしておきます。

家族信託は、信託法第3条が定める「契約による信託」を、家族の中で(営利目的ではない形で)使う運用の総称です。法律上「家族信託」という名称が定義されているわけではなくて、業界用語に近い。「民事信託」と呼ぶ方が法律的には正確で、企業向けの「商事信託」と対比する形で使われます。

仕組みとしては、財産を持っている人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産を託して、利益を受け取る人(受益者)のために管理・運用してもらう、という三者構造になります。冒頭の方の例だと、お父様が委託者、息子さんが受託者、お父様自身が受益者(自益信託)。お父様の認知症が進んでも、受託者である息子さんが実家の管理や売却を進めたり、預金から介護費を引き出したりが滞らずできる、というのが家族信託のメリットです。

成年後見制度との違いをよく聞かれます。成年後見は本人の判断能力が低下してから家庭裁判所が選任する仕組みで、本人の財産を守る方向に強く動くのに対して、家族信託は判断能力があるうちに本人が自分で受託者を選ぶ仕組みで、財産を「動かして使う」自由度が高い。柔軟性で家族信託、客観性と保護で成年後見、というのが私の整理です。とはいえ、両制度はゼロサムではなくて、家族信託で日常の財産管理をしつつ、認知症が進んだら成年後見も併用する、というハイブリッド運用も実務ではあります。

信託契約書に何を書くか|実務でつまずきやすい場所

信託契約書に何を書くか|実務でつまずきやすい場所

家族信託の中心にあるのが、信託契約書(信託法第3条第1号)です。これがちゃんと作れているかどうかで、後の運用の通りやすさがほぼ決まる。書く項目自体は、目的、信託財産、受託者の権限、受益者、信託期間、終了時の帰属先、というあたりが核です。書く項目が分かっているなら自分でできそうに見えるのですが、実際には項目ごとに「どう書くか」で詰まる場面が多い。

目的の書き方が、後で効いてくる

「目的」は、何のためにこの信託を組むのか、を書く欄です。「父の認知症対策」と一行で書く方もいるのですが、これだと足りない場面があります。たとえば、認知症が進んだ後に実家を売却して介護施設の費用にあてる、という運用を想定しているなら、その意図を契約書の目的に書き込んでおかないと、受託者が「目的の範囲内」として実家を売る行動に出にくくなります。

目的の書き方が抽象的すぎると、受託者の権限の範囲が曖昧になる。逆に具体的に書きすぎると、想定外の事態への対応が縛られる。このバランスの取り方が、ひな形だけ見ていてもピンと来づらい部分です。

信託財産の特定

預貯金、不動産、有価証券、自社株、ゴルフ会員権など、信託する財産を一つひとつ特定して書きます。預貯金なら銀行・支店・口座番号、不動産なら所在・地番・家屋番号を登記事項証明書から正確に転記。

ここで詰まりやすいのが、預貯金の扱い。実は、銀行の通常の口座をそのまま「信託財産」として動かすことはできません。信託専用の口座(信託口口座)を、銀行に新規で開設してもらう必要があります。これが意外と難しくて、信託口口座の開設に対応している銀行は限られていますし、銀行ごとに「うちで開設するなら、こういう契約書の体裁にしてほしい」という独自の要求があります。

冒頭のお客様のケースでは、信託口口座の開設に対応している銀行を3つピックアップして、最終的にお父様が口座を持っている銀行で開設できるかを事前確認しました。この作業を抜くと、立派な契約書ができたのに口座が開設できず、結局現金を動かせない、という詰みパターンが起きます。

受託者の権限を、どこまで広げるか

受託者ができること、できないことを契約書で具体的に決めます。「不動産の管理・処分」「預金の払戻し・運用」「有価証券の売買」など、許可する行為を列挙する形が一般的。

ここでひな形をそのまま使うと、受託者の権限が狭すぎて実家を売却できなかったり、逆に広すぎて受託者が独断で財産を動かせる設計になっていたり、というケースがあります。家族の状況や受託者の信頼度に合わせた調整が要る部分で、私は契約書の起案前に「お父様としては、息子さんに何をどこまで任せたいですか」をヒアリングすることに、けっこう時間をかけます。

受益者と次の受益者

受益者は、信託財産から利益を受け取る人。多くのケースでは、最初は委託者本人が受益者を兼ねます(自益信託)。

ここで「自分の妻、その後は子、孫」というように受益者を世代を超えて指定したい、というご相談も受けます。これがいわゆる受益者連続型信託で、後の章で書く30年ルールが効いてくる論点です。

公正証書にするか、しないか

法律上、信託契約書を公正証書にする義務はありません。私文書として作成しても契約として有効です。ただ、現実的には公正証書にしないと、信託口口座の開設が通らない場面が多い。多くの銀行が、口座開設の条件として信託契約書の公正証書化を求めているからです。

「公正証書は任意と聞いて省略しよう」と思いがちなのですが、実務では事実上必須、と考えてもらった方がいい。公証役場の手数料は信託財産の評価額に応じて3〜10万円が目安で、ここを省く意義は薄いです。

雛形そのまま使いの、何が怖いか

雛形そのまま使いの、何が怖いか

ネット上には信託契約書のひな形が大量にあって、ダウンロードして自分で作る方も実際にいます。法律上、家族信託の契約書を作るのに資格は要りません。家族のための契約書を、報酬を取らずに自分で作る分には、自由です(行政書士法第19条が禁じるのは、行政書士でない者が「他人の依頼を受け報酬を得て」業として書類を作成することなので、自分の家族のために自分で作るのは規制の対象外)。

ただ、自作には独特のリスクがあります。私が見てきた中で、特にハマる人が多い3つを挙げます。

ひとつめが、信託口口座が作れない契約書を作ってしまうパターン。銀行ごとに口座開設の要件があって、ひな形の文言がそれを満たしていないと、立派な契約書ができたのに口座が開設できない。預金を信託したのに動かせないので、信託の中で一番大きな機能(受託者が日常の財産を扱う)が空回りします。

ふたつめが、税務リスクの見落とし。信託契約の組み方によっては、贈与税や譲渡所得税が予想外に発生します。たとえば、適正な対価なしに委託者と受益者を別人にすると、設定時点で受益者に対して贈与税が課税されます(相続税法第9条の2が、信託に関する権利を委託者から贈与により取得したものとみなす、と定めているからです)。自益信託(委託者=受益者)で組めばここは回避できるんですが、ひな形で適当に書き換えていると気づかないうちに課税対象になることがある。

みっつめが、不動産の処分権限が曖昧で、いざという時に動けないパターン。実家を売却したい時に、契約書の文言があやふやだと、買主側の司法書士が「この権限の書き方では受託者が単独で売却できるか怪しい」と指摘してきて、契約が止まることがあります。

ひな形は出発点としては有用なんですが、自分の家族の事情と、銀行・法務局・税務署の運用に合うようにカスタマイズする工程が、自作の最大の難所になります。私は「契約書は紙が完成すれば終わり、ではなくて、銀行と法務局で動くことを確認できて初めて完成」と捉えています。

行政書士・司法書士・弁護士・税理士、それぞれの守備範囲

行政書士・司法書士・弁護士・税理士、それぞれの守備範囲

ここからが、おそらく検索した方が一番知りたいところです。家族信託は複数の士業が関わる手続きで、それぞれにできることとできないことがある。正直に書きます。

行政書士ができるのは、信託契約書の起案、公正証書化のサポート、関連書類の作成、相続関係説明図の作成、家族へのコンサルティングです。逆にできないのは、不動産の信託登記の代理申請(これは司法書士の独占業務、司法書士法第3条)、紛争が表面化した場合の代理交渉や調停・訴訟(弁護士法第72条が定める非弁活動の禁止に抵触する)、相続税や贈与税の申告書作成(税理士法上の独占業務)。行政書士法第19条が「業として行政書士業務を行うのは行政書士に限る」と定めている裏返しで、他士業の独占業務には踏み込めない、ということです。

司法書士は、契約書の起案と信託登記の双方ができます。不動産が絡む案件では、司法書士が前面に出るのが自然です。ただ、紛争対応や税務は弁護士・税理士の領域。

弁護士は、契約書・登記・紛争対応のすべてが可能です。相続争いが見えている案件、複雑な親族関係、過去にトラブルがあった家族で家族信託を組む場合は、弁護士に主導してもらう方が安全。費用は他士業より高めです。

税理士は、信託に関わる相続税・贈与税・譲渡所得税の申告と税務戦略の設計。信託財産が大きい場合や、受益者連続型を組む場合は、契約書設計の段階から税理士の関与が要ります。

私の現場感を率直に書くと、こうなります。不動産が信託財産の中心にあるなら、最初から司法書士に主導してもらう方が早い。親族関係が穏やかで、預貯金中心の小規模な家族信託なら、行政書士の関与で十分回ることが多い。相続争いの予兆があるなら、弁護士に最初から関わってもらう。信託財産が5,000万円を超えたり、自社株が含まれるなら、税理士を設計段階から入れる。

冒頭のお客様のケースでは、実家の戸建てが信託財産に含まれていたので、契約書設計と全体コーディネートを行政書士(私)が、信託登記を提携司法書士が、税務確認を税理士が、というチーム編成になりました。一人の士業で完結はしません。それでも、最初に相談できる窓口があるかないかで、お客様の動き方は大きく変わると感じています。

費用相場とケース別の総額

費用相場とケース別の総額

費用感を、ケースに合わせて書きます。

家族信託にかかるお金は、大きく分けると専門家への報酬と、税金・公証手数料の2系統です。

専門家報酬の相場は、コンサルティング報酬は信託財産評価額の1.1%(最低33万円程度)が目安。契約書作成費用が別途5〜15万円。司法書士の信託登記報酬が6〜10万円。これに信託監督人を置く場合、月額1〜5万円のランニングが追加で発生します。

税金・手数料は、公証役場の手数料が3〜10万円(財産規模に応じて変動。公証人手数料令が2025年10月に約20年ぶりに改定されているので、最終額は公証役場の見積もりで確認してください)、信託登記の登録免許税が建物で評価額の0.4%、土地で0.3%です(土地は本則0.4%を租税特別措置法第72条で軽減したもので、2026年度税制改正で適用期限が2029年3月31日まで延長されています。期限のある措置なので、実行段階で司法書士に確認してください)。

ケース別の総額イメージを並べます。

預貯金1,500万円のみで、不動産を信託に入れない、シンプルな自益信託の場合。コンサル料の最低ライン33万円+契約書5万円+公正証書3万円程度で、合計40万円台が目安です。司法書士登記は不要、税理士の関与も限定的なら、これでまとまります。

冒頭のお客様のように、預貯金1,500万円+不動産3,000万円のケース。信託財産評価額の1.1%だと約49.5万円のコンサル料、契約書10万円、公正証書6万円、信託登記の登録免許税が建物部分で評価額の0.4%と土地部分で0.3%、司法書士報酬8万円、というように積み上がって、合計70〜90万円程度。

預貯金3,000万円+不動産5,000万円+自社株2,000万円のような大規模ケース。コンサル料110万円超、税理士関与、信託監督人設置、と費用がかさみ、合計150万円〜250万円規模になります。

「行政書士に頼めば司法書士や弁護士より安いと思ったが、結局司法書士登記や税理士関与が要る場合は、トータルで安くならないことがある」と、相談で言われることがあります。これは半分その通りで、行政書士の単価が司法書士・弁護士より低めの傾向はあるものの、不動産登記や税務が外せない案件では、最終的な総額はそこまで変わらない場面もあります。

契約後にもお金がかかる|30年で終わるという話

契約後にもお金がかかる|30年で終わるという話

家族信託は、契約を結んで終わりではなくて、信託期間中ずっと運用が続く手続きです。ここで2つだけ書いておきます。

ランニングコスト

信託監督人を置く場合、その報酬が月額1〜5万円程度。これは家族の中に信託を監督する立場を置くか、専門家に頼むかで設計が変わります。家族受託者の場合、受託者報酬は無償が一般的ですが、信託契約書で月数万円の受託者報酬を定めることも可能です。

契約変更時の費用も、頭の片隅に。受託者の変更、信託財産の追加・除外、受益者の変更などで契約書の改訂が必要になると、再度公正証書化と専門家報酬がかかります。最初の設計で柔軟性を持たせておくか、変更時のコストを覚悟するかの選択になります。

受益者連続型信託の30年ルール

受益者を、次世代・次々世代まで指定したい、というご相談も一定数あります。「妻が亡くなったら長男に、長男が亡くなったらその子(孫)に」というような連続指定。これを受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)と呼びます。

ここで知っておかなければならないのが、信託法第91条の「30年ルール」です。受益者連続型信託は、信託設定から30年を経過した後は受益権の新たな取得が一代限りとなり、その受益者が死亡するか受益権が消滅した時点で信託が終了する、と定められています。要するに、信託設定から30年を超えて受益者を世代承継する設計には法律上の上限がある、ということです。

「孫の代まで指定したつもりが、実は30年で切れる設計になっていた」というケースは、ひな形をそのまま使うと起きやすい。30年ルールの存在を知らずに契約書を組むと、設計者の意図と法律の枠組みがズレた契約書ができあがります。

おわりに|家族信託は「契約書を作って終わり」の手続きではありません

冒頭のお客様には、契約書設計と全体コーディネートを当事務所で、信託登記を提携司法書士に、税務確認を税理士にお願いする形で着地しました。総費用は、専門家報酬と税金合計で70万円台。お父様が認知症の進行が比較的緩やかな段階で動けたので、ご本人の意思確認も問題なく、公証役場での公正証書作成までスムーズに進みました。

家族信託を、契約書1枚で完結する手続きだと思っていると、たぶん途中で詰まります。契約書設計、公正証書化、信託登記、信託口口座、税務調整、そして契約後の運用フェーズ。これらが全部つながっていて、一つの士業で全部巻き取るのは事実上難しい場面が多い、というのが私の実感です。

行政書士に頼む価値は、「全部できます」ではなくて、「最初の相談先として、誰に何を頼むかを一緒に整理できる」ところにあると考えています。不動産が絡むなら司法書士を呼ぶ、税務が大きいなら税理士を呼ぶ、紛争懸念があれば弁護士に渡す。この交通整理を、最初の30分の相談で組み立てられるかどうかが、結果の良し悪しを左右する手続きだと思います。

そして、繰り返しになりますが、最新の運用は所管の専門家・公証役場・税理士・司法書士で必ず確認してください。本記事は補助線です。家族信託は税制改正や運用通達で細部が変わる領域なので、ここで読んだ情報を出発点に、実際の手続き直前に最新確認をする、というのが安全な進め方になります。

迷ったら、行政書士に最初の無料相談だけでもしてもらえたらと思います。家族構成と信託したい財産を聞かせてもらえれば、どの士業をどの順で関わらせるか、費用の総額がだいたいいくらになるか、ここまでは無料相談ベースでお話しできます。家族信託は、最初の入口で間違えると後がしんどい手続きなので、入口のところから一緒に考えさせてもらえたら嬉しいです。

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